DX化を推進する企業の9割は迷走している
今回紹介する書籍は『成功=ヒト×DX デジタル初心者のためのDX企業変革の教科書』(プレジデント社)。著者は、デジタルシフトウェーブ代表取締役社長の鈴木康弘(すずき・やすひろ)氏です。
鈴木氏は富士通、ソフトバンクを経て、ネット書籍販売会社イー・ショッピング・ブックスを設立。セブン&アイ・ホールディングス取締役執行役員CIOに就任し、同社のデジタルシフトを推進してきました。その後、デジタルシフトウェーブを設立し、代表取締役社長として様々な企業のDXを支援しています。
多くの企業がDXの波に乗り遅れまいとDXに取り組み始めていますが、鈴木氏は「DXに取り組み始めた企業の9割が迷走している」と語り、その大きな原因は「DXの本質を把握していないことにある」と指摘しました。
では、企業はどのようにすれば迷走することなくDXを推進することができるのでしょうか?
DXが進まない5つの原因
まず、鈴木氏はDXを推進する前に「デジタルシフトとDXの意味をきちんと理解することが大切」だと説明します。デジタルシフトとは既存のアナログ業務をデジタル化することです。アナログ業務のデジタル化によって効率や生産性を向上させるといった成果を得ることができます。
対してDXとは、デジタル化によりビジネスモデルや人々の生活を変革させることです。デジタルシフトのように単なるアナログのデジタル化にとどまらず、既存のビジネスや業務を変革することで新しいビジネスに生まれ変わらせることを指します。
鈴木氏はDXがうまくいかなくなる原因から、DXを成功させる秘訣をひも解きました。同氏はDXがうまく進まない要因は主に次の5つに整理されると言います。
ケース1 経営者は掛け声ばかりで担当者は不在。全く進まない。
ケース2 専任部門を新設しても、ノウハウ不足で停滞。
ケース3 マーケティング部門が盛り上げるが、全社的には何も変わらない。
ケース4 システム部門に任せたために、開発・ツールの導入が増加。
ケース5 変革するも長続きせず、全社定着に至らず自然消滅。
いずれも「他人任せの意識が迷走を生んでいる」と鈴木氏は指摘します。また他人任せの意識は、仕事に対する取り組みの違いである“デジタル格差”を生み出してしまっていると鈴木氏は続けました。
デジタル化に積極的な人は、デジタルを進んで活用し、自らの仕事を変えようと努力します。(中略)デジタル化に消極的な人は、デジタルを活用しようとせず、今までの仕事のあり方を変えようとしません。(中略)このデジタルへの取り組みの姿勢の差が将来、大きな格差となることは明白です。(中略)そして、「富める人」と「貧する人」という構図を生み出す可能性も高くなります。
この傾向は人ではなく「企業」にも当てはまります。
日本全体のDXを進めるためには、社会全体のデジタルスキルを底上げし、人々が等しくDXの恩恵を得られるようにする必要があります。そのためにも「企業は自社のデジタルスキルの底上げに力を入れることが必須」だと鈴木氏は指摘します。
DXを実現させるキーマンは社内にいる
企業のDXを実現するにあたって「本当に必要なのはエンジニアやマーケターではなくDX人材」だと鈴木氏は言います。DX人材とは業務システムを熟知し企業に変革を起こせる人のことです。
エンジニアやマーケターなどの専門性を持った人材を外部から招集し、DXを推進するケースも多いと思います。しかし、専門性の高いスペシャリストを集めても、社内の現状を変えるためのスキルを持ち合わせておらず、システム導入やWebサイトでの販促といった表面上のデジタル化だけが進み、本来のDXが実現されないことが多いのです。
そのため、鈴木氏は「企業内の人材をDX人材として育成していくことが近道であり現実的な解決方法」だと解説。そもそも、日本にはDXを推進した経験のある人材がまだまだ少ないのが現状です。だからこそ「最初は外部に頼ったとしても最終的にを自社でノウハウを残すことが大切」だと鈴木氏は言います。
また DX を成功させるためには長期視点で強い思いを持って変革に取り組む姿勢が必要だと続けます。具体的には従来のビジネスを否定しゼロからビジネスを組み立て直すことが求められます。ビジネスはヒト・モノ・カネの3つの要素で構成されていますが「DX成功のカギはヒトへの取り組みを行っていくことだ」と鈴木氏は言います。
DX人材に必要な5つのステップ
鈴木氏はDX人材に必要なスキルは「企業変革スキル、業務改革スキル、システム構築スキルの3つ」だと説明します。こうしたスキルを併せ持つ人材は日本で育ちにくい状況のため、社内で育成することが近道だと言うのです。
また、鈴木氏はDXを実現するには以下の5つのステップが必要だと言います。
1.経営者の意識を変え、決意を促す
2.デジタル推進体制を構築する
3.未来を想像し、業務を改革する
4.自社でITをコントロールする
5.変革を定着させ、加速させる
本書ではDXを実現するための5つのステップを具体的な解決策やご自身の様々なエピソードから解説しています。
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