求められるマーケティング思考の転換
Product(商品・サービス)、Price(課金方法)、Promotion(販促施策)、Place(販路)からなるマーケティングの4P。「うまくできているようですが、ProductとPlaceが離れ、実は非常に異質な部分としてPlaceが存在しました」と奥谷氏は切り出す。
今までのマーケティング思考はプロダクトアウト、つまり商品基点の「フロー型マーケティング思考」で、良い商品を作り、競争力のある価格で販促を行えばいいという流れだった。
この従来のフロー型のままデジタル化を進めると、メーカーも小売りもまずPlace(販路)をEC化し、次に販路開拓のためにマーケティングやプロモーションに対してデジタルを活用するようになる。
しかし、4Pのフォーメーションは変わらないので「これだと顧客との繋がりが非常に作りにくくなる」と奥谷氏は指摘する。
「顧客時間では、Place=顧客と繋がる接点からマーケティングし、商品やサービスを考えていこうと提唱しています」と奥谷氏。それを「Engagement4P」と呼び、循環型マーケティングの実践が重要であるとしている。
Placeは、店舗やネットストア、モバイルアプリなど、スマートフォンを使えば場所は問わない。その顧客の居場所に商売の基本である顧客価値をうまくつなぎ、顧客理解のためのデータをしっかりとって可視化する。そしてそのデータをもとに商品、価格、販促を打ち出す。どのような商品、体験、コミュニケーションを届けるかは「顧客理解」に基づくのだ。
「CRMの実現ができる、このマーケティングサイクルを回すのがD2Cの基本です」と奥谷氏は述べる。
ユーザーの嗜好性を可視化するMy COFFEE STYLE
UCCが新事業として2019年からサービスを開始した「My COFFEE STYLE」は、前述の循環型マーケティング思考を体現している。
「My COFFEE STYLE」の前身には、リアル店舗の「COFFEE STYLE UCC」がある。コーヒー豆を購入して自宅で淹れたい、若年エントリ層向けの体験型店舗だ。
今までコーヒーは、ずらっと並んだコーヒー豆の中から選ぶというのが一般的だった。エントリ層にとっては選択のとっかかりがなく、産地や味わいを説明されても選びづらかった。そこで「COFFEE STYLE UCC」では食べ合わせを提案。フルーツ、チョコレート、チーズなど、食べ物に対して合うコーヒーを紹介することで、好みのものを見つけられる仕掛けを作った。食べ合わせはきっかけづくりであり、この実店舗を軸として「My COFFEE STYLE」は設計されている。
まずは初心者向けに大きな入り口を作り、そこから徐々にコーヒーのファンになる階段を作る。それがコーヒー好きの裾野を広げ、ロイヤルティの高いファンを作る。プロジェクト始動の裏には、そんな仮説があった。
「My COFFEE STYLE」は店舗とECサイトを連携して、コーヒー豆の購入者をサポートするOMO型のサービスだ。店頭でLINEの友達登録をするとすぐにLINE上でポイントカードができ、店頭での買い物にもポイントが付与される。貯めたポイントはECでも使える。
LINE上には、味覚診断、体験型コンテンツなど、コーヒー選びに気づきを与えるコンテンツがいくつも用意されている。
アプリの中核には「My COFFEE MAP」がある。マップには「COFFEE STYLE」で購入できるコーヒーがひとつずつプロットされており、コーヒーを選んで飲んだ感想を入れると、徐々に好き度を判定し、レコメンドを色の濃淡で教えてくれる。レコメンドはLINEトーク上でも見られる仕組みだ。