マーケターの会話によく使われる「インサイト」という言葉
インサイトという言葉は、消費財業界では以前からよく使われていました。近年はマーケティング本にも多く登場するようになったことから、消費財以外のデジタルマーケティング業務などに従事する人の間でも広まってきている印象です。
インタビューをして消費者から出てくる単語だけで、インサイトが直接わかるようなことはほとんどありません。消費者の行動や言動を観察し、仮説をマーケター自身で立て、その仮説を証明していくプロセスが重要になってきます。消費財メーカーではマーケティング部門とは別に調査部門が存在し、消費者インサイトを見つけるために日々努力をしています。当然マーケターも一緒になってインサイトを見つけることになります。
インサイトの重要性や、過去の成功事例を取り上げたりした記事や書籍は多くあるものの、実際にインサイトを見つけ出す方法論や、具体的な最新の事例については、あまり語られることがないように思います。本記事では、私自身のインサイトの定義の整理から、実際にインサイトを見つけるための手法、そして具体例について触れていきます。
インサイト発掘は、川の中から砂金を探すような作業
そもそもインサイトとは何でしょうか。定義は人それぞれで、ニュアンスも微妙に異なっているようです。私の定義では、インサイトとは、「消費者の既成概念によって隠れている、まだ言語化、顕在化されていない消費者ニーズ」と考えています。
既に消費者自身が明確に説明できているものは、インサイトとはみなしていません。消費者が自分の言葉で、「~が欲しい」や「~に困っている」と表現するものは、“顕在化しているニーズ”です。そうではなく、市場の一般的な常識になっていない、消費者がはっきりと言語化できていないニーズ=顕在化していないニーズを、インサイトと定義しています。
インサイトを探すというのは毎回、川の中から砂金を探していくような作業です。見つけたインサイトの卵を明確に言語化するところまで行うのが、消費者調査部門やマーケティング部門の仕事になります。膨大な消費者調査の中で、なんとなくインサイトの卵のようなもののヒントを見つけ出すことがありますが、それは真のインサイトを発掘するほんの入り口にすぎません。そのぼんやりしたヒントを深掘りし、分析と議論を重ね、最終的にそれを言語化する必要があります。言語化ができた瞬間は、マーケターとして大きな達成感があります。正直なところ、自分が関わってきたプロジェクトの中でも、これだ! と100%納得したインサイトを発見できたことは、数えるくらいしかありません。インサイトは、データ分析や消費者インタビューを基にチームでワークショップをしただけで発見できるものではなく、数週間から数ヵ月かけて探していくものだと考えています。
スイッチングを促すプロダクトはインサイトを押さえている
インサイト発掘の具体例に入る前に、インサイトに注目する理由についても、整理しておきたいと思います。それを考える上で必要なのが、ベネフィットに関しての説明です。インサイトに対して、ベネフィットは、「消費者の既成概念を覆し、世の中にはまだないベネフィットにも関わらず、消費者の顕在化されていないニーズ(=インサイト)に応える効果感を提供すること」と定義できます。
インサイトを発見するのは、新しいベネフィットを提供するプロダクトを開発するためです。インサイトに対するベネフィットを付与してあげることで、潜在的な消費者ニーズを満たす形になり、“今までにはない新しい”プロダクトが誕生します。
BtoBであっても、BtoCであっても、良いプロダクトの定義は、ベネフィットと独自性(≒今までにはない新しさ)を兼ね備えていることです。ベネフィットがないプロダクトは、たとえ見せ方を上手くして、トライアルを獲得できたとしても、消費者のニーズに応えられていない以上は、継続しません。一方、独自性を持っていないプロダクトは、既に市場にあるベネフィットを提供するため、競合の先行プロダクトと比較して、不利になります。既存プロダクトを凌駕する投資や人的リソースがない限り、先行プロダクトを超えることは不可能です。反対に、先行しているプロダクトのシェアを奪い、ユーザーのスイッチングを促すプロダクト達には、間違いなく、ベネフィットと独自性が兼ね備えられています。それこそが、それはインサイトを捉えたプロダクト、つまりまだ顕在化されていないニーズを解決するプロダクトなのです。