本インタビューは、コロナ感染拡大予防のガイドラインに従って実施しました。
低リスクで継続的に高い成果を出せるRTB Houseを採用
MarkeZine編集部(以下、MZ):千趣会では2019年からダイナミックリターゲティング広告媒体「RTB House」を活用されていると伺いました。まずその導入の経緯と共に、中川さんが担当されている業務領域についてお聞かせください。
中川:ベルメゾン戦略部のEC販促チームでディスプレイ広告を担当しています。ディスプレイ広告は「ユーザーが見た商品、あるいは興味がある商品の広告を出していく」というダイナミック広告が主流となっており、その管理、運用調整を行っています。
私が担当になったのはこの1〜2年ですが、RTB Houseはそれ以前から導入していました。私たちのチームは「Web広告からの受注拡大」という目標を持っており、この目標に向けて日々トライアンドエラーを繰り返しています。RTB Houseの活用もその一貫で、「まずは挑戦してみよう」ということで2019年に導入されました。RTB House以外にも複数媒体を活用しているのですが、RTB Houseは常に結果が出ているため、現在も継続して活用しています。
MZ:これまで運用してきて、RTB Houseの評価、良いと思うポイントについて教えてください。
中川:大きく3つあります。まず、導入を決めたポイントにもなるのですが、RTB HouseではROAS保証という課金モデルがあり、リスクを少なく実施できるというメリットがあります。先ほどトライアンドエラーと話しましたが、ROAS保証があることで、リスクを少なくしつつ挑戦しやすかったです。
次に、RTB Houseの特徴であるディープラーニング技術について、非常に早いうちから成果として現れたことも大きかったです。通常、ディープラーニングでは学習期間に3ヵ月は必要といわれていますが、私たちのケースでは1ヵ月後からしっかり成果が出始めました。
最後に、RTB Houseは他媒体と異なる層にもリターゲティング広告を配信できるという点です。複数媒体を見ているため肌感でわかるのですが、リターゲティング広告はどの媒体も同じ層にアプローチしがちです。しかしRTB Houseの場合、分析エンジンがディープラーニングを備えているため、今までアプローチしてこなかったお客様にもアプローチすることができます。私の想像ですが、「実は購買意欲が高いと推測される層」のように、他と少し違った分析を行って配信しているイメージがあります。
ディープラーニングの学習期間は1ヵ月! 短期成果を出す千趣会の運用法
MZ:RTB Houseのユーウェンさんにお伺いします。ユーウェンさんは、千趣会さんの担当として本プロジェクトに関わっていらっしゃるんですよね。
ユーウェン:はい、千趣会さんとは配信当初から私が運用を担当しています。私はRTB Houseでアカウントディレクターを務めているのですが、このポジションは顧客企業さんとコミュニケーションをとりながら、キャンペーンに合わせて運用からレポーティングを行い、改善案の提案などPDCA全体を見る職務となります。
MZ:なぜ千趣会さんは学習期間が通常より短いなかで成果を出されたのか、その理由についてどんなことが考えられますか。
ユーウェン:大きな理由として、最初から完璧にタグの実装を行ってくださった点が考えられます。RTB Houseは、他媒体と比べてタグの種類が多いのですが、それにはすべて意味があるんです。千趣会さんはその意味をご理解して、完璧な対策を行ってくださっているので、エンジンの学習速度が速くなっているのだと思われます。加えて、サイト規模が大きい、つまりデータの量が多かったのもポイントだったと思います。
MZ:タグの多さについては、中川さんはどうお感じになっていますか。
中川:確かに他と比較したら多めだとは思います。実は2022年1月にサイトをリニューアルして、そこで見直しも行ったのですが、タグ1つひとつに意味があるのは確かにそのとおりだと思いました。また、それだけ数が多いからこそディープラーニングが得意というのも把握でき、必要なものと理解しています。
ただ、それまで順調に運用してきたのですが、2021年に成果が伸び悩むという事態が起こりました。コロナ禍という大きな要因があり、それにどう対応できるか悩んだのです。
EC需要は拡大するも、Web広告の成果は鈍化
MZ:2021年にどのような課題が起こったのでしょうか?
中川:2020年から始まったコロナ禍のなかで、外出をともなう買い物が減った結果、オンラインショッピングの割合が急増しました。そのため2020年はかなり業績も上がり、ベルメゾンのECサイト来訪者も増えたのですが、2021年に入り、これまで外の店舗運営に注力していた小売事業者によるEC市場参入が拡大しました。大手総合通販企業もWeb広告に費用を投下するようになり、2020年と比較すると伸び悩む状況となりました。オークション費用がつり上がり、1クリック当たりの費用が急上昇したんです。
また集客が伸び悩みリターゲティングの対象者にも影響がありました。費用の上昇、対象者数の鈍化という2つの外的要因により、Web広告の成果が鈍化しました。これはどの媒体でも同じ状況でした。
もちろん、RTB Houseの配信を開始してから3年目というタイミングだったので、安定配信をしていても伸び悩む時期だったかもしれません。ただ、Web広告からの受注拡大目標があるので、打開策は必要でした。そこで、RTB Houseで改善策を取ったところ、頭一つ抜け出た成果が得られたのです。
計測形態と課金形態を変更
MZ:どのような改善策を取られたのでしょうか?
中川:RTB Houseさんから、計測形態と課金形態の変更を提案されました。
それまでRTB House側のキャンペーン設定ではGoogle AnalyticsかAdobe Analytics等の計測ツールでよく使用される「ラストクリック計測」を適用していましたが、弊社内部の基幹システムとの計測乖離状況を確認しますと、どちらかというと「ポストクリック計測」に切り替えたほうが効率良く配信できるという提案を頂いたため、「ポストクリック計測」の方に切り替えることに決断いたしました。
ユーウェン:こちらは千趣会様の基幹ツールの状況をヒアリングしたうえのご提案でした。Google Analytics等のツールではラストクリック計測が主流になっているため、ラストクリック計測の方から配信を開始したキャンペーンが多いですが、実際にお客様側が見ている数字の計測ロジックに設定を合わせたほうがベストな結果を出せます。この部分について、RTB Houseは割と柔軟的に調整できる方だと思います。
中川:そしてもう1つ、ROAS保証の課金からダイナミックCPC課金へと変更しました。前述したとおり、ROAS保証は非常に大きいメリットがありますが、一方でRTB House側のリスクは高くなります。そのためどうしても保守的な運用になりがちです。
そこで当社もリスクを取りつつ、攻めの運用をしてパフォーマンスを上げることを決め、CPC課金に切り替えました。
前年比1.7倍の受注額を達成
MZ:計測方法と課金形態を切り替えた成果を教えてください。
中川:ポストクリック計測とダイナミックCPC課金に切り替えたことで、パフォーマンスが改善しました。時期によっては、リターゲティング広告からの受注金額が前年比1.7倍になりました。
MZ:ダイナミックCPCの仕組みと利用するメリットについて、ユーウェンさんからもご説明をお願いできますか?
ユーウェン:ダイナミックCPCは、全体の入札状況とそのキャンペーン時のパフォーマンスに合わせ、自動的にCPCが調整されて最適化がかけられる仕組みです。ROAS保証の場合、入札時にエンジンがROASを考慮するため、どうしても安全な保守的入札になりがちです。これに対しダイナミックCPC課金ではクリック発生時に課金が発生するため、当社側のリスクが低くなり、エンジンの正確性や積極性が増加する結果になります。
こう説明すると「ROAS保証型と比べてCPAが悪くなるのでは」と懸念される方もいますが、そういう状況にはなりません。ダイナミックCPCは入札状況だけでなく、パフォーマンスも見て最適化を図るからです。入札結果を見て、CPAが高くROASが悪化した場合は、CPCで調整を図り、達成できる状態のCPCまで持っていくという調整は1日中何回も実施していますし、ROAS保証からダイナミックCPCに切り替えても、達成できる状況に着地できるキャンペーンはとても多いです。
ポストCookieを視野に新しい取り組みにも挑戦
MZ:これまでRTB Houseを活用し、成果を出し続けてきたわけですが、これからの展望やRTB Houseに期待することについてお聞かせください。
中川:まず短期的なところでは、受注拡大ですね。今お話しした改善施策は2021年の6月〜7月に実施したもので、今年はさらにそこからの拡大を目標にしているので、プラスでできる施策について、密にコミュニケーションを取りながら、一緒に考えていただけると嬉しいです。
長期的な視点でいうと、ディスプレイ広告分野では目前に迫ったポストCookieへの対応が大きな課題となっています。リターゲティング広告だけで通じることはなくなってくると思うので、そこに向けてRTB Houseさんがどう対応していくのか、ディープラーニング技術をどう活かしていくのか、とても期待しています。私たちも、今の受注拡大をしながら、ポストCookie時代に向けた新しい施策を進め、そのなかから勝ちパターンを探っていきたいと思っています。
ユーウェン:Cookie規制に対する対策は別にありますが、現在のリターゲティングを伸ばしていくところは、引き続きコミュニケーションをとりながら、またできるところを提案していきたいですね。
Cookieに頼らないターゲティングやブランド広告に挑戦するRTB House
MZ:最後にRTB Houseのカントリーマネージャーを務める奥内さんにお伺いします。ポストCookie時代に対し、RTB Houseはどのように考え、今後どのような提案をしていくのでしょうか?
奥内:方針は2つあります。1つは、リターゲティングの分野における精度の維持・向上です。なぜかといえば、Cookie規制によりリターゲティング広告自体がゼロになることはないと考えているからです。
奥内:Cookieは1人ひとりのユーザーを識別するものです。これによりパーソナライズドリターゲティングを実施しているので、Cookie規制によりパーソナライズは難しくなります。
これに対し、Googleが新しいターゲティング技術の概念を提唱しています。Privacy Sandbox およびその中のFLEDGEです。RTB Houseもそこに参加して、他のアドテク事業者と共に議論を続けてきました。そこで当社が提案した2つの仕組みが採用されました。
1つはProduct Level Turtledoveという仕組みです。これまではCookieでパーソナライズされていた1対1のターゲティングが、これからは「この商品を見たグループ」というように、グループに対するターゲティングになります。Cookieでは閲覧履歴を配信事業者側のサーバーに渡し、その履歴を参考に広告を配信していたのですが、FLEDGEのProduct Level Turtledoveではグループの情報をChromeブラウザ側で持ち、サーバーには渡しません。
具体的には広告主のサイトに貼ったタグを使って「ある商品を見た」というユーザーをグルーピングするのですが、その時に「この情報をWebブラウザに格納してください」と指示を出すのが当社のタグになります。広告を表示する媒体をユーザーが訪れた時にChromeブラウザからグループ情報を呼び出します。こうすることで、ユーザーの匿名性を高めつつ、ターゲティングを行うことができます。この実装に関し、2022年1月〜3月にかけてテストをしていきます。
もう1つの提案は、Outcome Based Turtledoveという仕組みです。いくらで入札するのかという金額調整をするための技術です。パフォーマンスを伸ばすため、商品の購入意欲の高い層を重み付けしていく(高い金額で入札する)ことが可能になります。この2つが採用されたことで、これまでとかなり近いリターゲティングを続けていくことができると考えています。
MZ:ありがとうございます。もう1つはいかがでしょう?
奥内:もう1つが新分野への挑戦です。これも2つのソリューションがあります。
1つがブランディング広告です。RTB Houseは現在リターゲティング広告が事業の99%ですが、昨年からブランディング広告配信を始めました。ブランド認知を高めるための動画広告配信です。ブランドリフトサーベイを走らせて認知度や好感度の変化も把握でき、マーケティング活動に活用いただける商品となっています。
さらにもう1つが、Prospectingという名前でこれから展開していく予定のものです。これまでの「一度来た来訪者を呼び込むリターゲティング」ではなく、「来ていないユーザーをターゲティングする」という新しいターゲティングです。コンテクスチュアルターゲティングなどの手法を使い、単純にトラフィック誘導だけもできるのですが、それだけでなく「購入・受注するかもしれない層」を探し出す活動も含んだソリューションになっています。