ブランドリサーチャーが語る100超の海外事例
今回紹介する書籍は『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』。著者はブランドリサーチャーの廣田周作氏です。
廣田氏は放送局でのディレクター職や広告会社でのマーケティング、ブランドコンサルティング業務を経て2018年8月に企業のブランド開発を専門に行うHengeを設立。ロンドンに拠点を持つリサーチ企業のStylus Media Groupと、ニューヨークに拠点を置くアクセラレーション企業のTheCurrentで日本におけるチーフを務めるなど、海外企業のマーケティング動向にも明るい人物です。
本書は、廣田氏が100以上の海外事例を通じてマーケティングの新たな可能性と面白さを伝えるべく著した1冊です。前半では成功/失敗事例を踏まえて現代におけるマーケティングの役割を問い直し、世界的にも「これからの消費の中心を担う存在」と目されるZ世代のインサイトを考察しています。後半では「メタバース」や「ダイバーシティ」など、国内外のマーケティング業界で注目を集めるキーワードを解説。事例はもちろん、先進企業を真似て自社のマーケティングへ取り入れる際の注意点にも触れています。
消費者の価値観が多様化・複雑化し、インサイトやニーズが捉えづらくなる一方、SNSを通じて企業の振る舞いそのものが消費者から見えるようになった現代。日本のマーケターは海外の事例から何を学べばよいのでしょうか。
マーケティングとは、未来への約束を守ること
廣田氏は「企業が消費者に、どこまで未来の安心を約束できるか」が、消費者のニーズを満たすこと以上に重要であると述べています。消費者からはブランドのストーリーや思想はもちろん「どのようなプロセスで商品を形にしているのか」「どのように売ろうとしているのか」という具体的な行動も問われているのだというのです。
未来の安心を約束している企業の事例として、廣田氏はアーティストのリアーナが立ち上げたコスメブランド「Fenty」の取り組みを挙げています。「Beauty for All」を謳う同ブランドでは、リアーナが黒人女性の当事者として抱えていた「なぜ自分の肌の色に合うファンデーションが売られていないのか」という疑問を起点に化粧品を企画。著名なセレブリティを広告に起用して憧れを煽動する既存のコスメブランドとは違い、美の在り処を「あなたの中に本来あるもの」とする考え方がBeauty for All、つまりすべての人々に美を約束しているのだといいます。
「何か言ったふう」のマーケティングから脱却せよ
Fentyの事例に対し「『たかだか、アイライナーやファンデーションに様々な色を加えただけでしょ』と思ってしまうと、本質を捉えることはできません」と廣田氏。実際、ある企業がFentyよりも色の数を増やしてファンデーションを発売したところ、鳴かず飛ばずの結果だったといいます。売り方だけ真似をしても、リアーナの気付きや勇気、振る舞いが抜け落ちたブランドは支持されないことを示すエピソードです。
マーケティング業界ではバズワードやトレンドを追いかけるあまり手段が目的化し「何か言ったふう」の空虚な仕事が生まれがちだと廣田氏は指摘。マーケターが仕事の意義を見出し実体的な価値を生むためには「世界中に目を向け、マーケティングと社会や環境、文化との間にどのような関係が結ばれつつあるのかを丹念に調べ上げることから始めるべき」というのが廣田氏の考えです。
本書を読めば、マーケティングが知的な営為であることに改めて気付かされます。自らの仕事を「意味あるもの」にするため奮闘する海外企業の取り組みから、小手先のテクニックではなくアティテュードとしてのマーケティングを学びたいと考える方は、本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。