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第99号(2024年3月号)
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MarkeZine Day 2022 Spring(AD)

ホテル客室CMでサンプリング使用率50%以上UP ブランドスイッチを効率化する『サンプリング2.0』

 「ブランドスイッチを効率的に起こすにはサンプリングが効率的」と話すABCフロンティアの梶原氏。現在同社では、サンプリングによる体験の質をさらに向上させた『サンプリング2.0』を仕掛けているという。MarkeZine Day 2022 Springに登壇した同氏は、データを参照しながらサンプリングが効率的な手段となる裏付け、より効率的な新たなサンプリング手法について解説した。

体験が起点となりブランドスイッチ サンプリング業界の概要を解説

 「今日は『サンプリング2.0』について、企業のマーケティングや広報の担当者様、代理店の方にとって有益なお話ができればと考えています」

 そう話すのは朝日放送グループで、番組販売、ライセンス事業、プロモーション事業などを行っているABCフロンティアの梶原氏だ。梶原氏はまず、個人的なエピソードをもとにブランドスイッチの体験を紹介した。

株式会社ABCフロンティア メディア事業・統括 梶原浩平氏
株式会社ABCフロンティア メディア事業・統括 梶原浩平氏

 「たとえば我が家でいつも飲んでいる『こだわり酒場のレモンサワー』。以前は別のブランドを買っていましたが、友人からもらって飲んだことをきっかけに買うようになったんです。花王の洗濯用洗剤『アタックZERO』も、ユニクロで服を買った際にサンプリングでいただいたものを使ってから、買うようになりました」

 これらのケースに共通するのは、体験がブランドスイッチのきっかけとなったということだ。同様のケースは他の分野でもあるのではないかと考え、調査を行ったという。

 セッションで紹介されたのは、GMOリサーチによる成人460人へのアンケートだ。シャンプー、アルコール飲料、化粧品の3つのカテゴリーについて「何がきっかけで今使っているブランドの商品を買い始めたのか」を質問したアンケートでは、ブランドスイッチのきっかけとしてはいすれもテレビCMが多く、サンプリングはテレビCMの1/6~1/2という結果だった。ここまでのデータを見るとテレビCMの強さを感じるが、続くデータを見ると印象はガラリと変わることとなる。

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 「我々はこれらのデータに加え、テレビなどの広告市場とサンプリング市場の規模を調査しました。結果、サンプリング市場はテレビ広告市場に比べ1/180以下しかなく、サンプリング施策の費用対効果はテレビCM施策に比べ圧倒的に高いとわかったのです」

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場所・グループ・ターゲット……サンプリング施策で注意すべきポイントとは?

 様々なデータを組み合わせ、費用対効果が非常に高いことが判明したサンプリング。実践方法については、いくつかの種類が存在するという。

 まずは特定の場所での配布。街頭や交通機関、商業施設、映画館や病院、小売店、イベントなどが一般的だ。またサークルや会社、PTAといったグループ単位での配布も可能。

 さらには、特定の商品を買った顧客に配布する方法も存在する。この方法は店頭での配布に限らず、データベースから競合商品を買ったユーザーに送付してもらうといったアプローチも採れる。

 どの方法が良いのかは商品ごとに異なるが、梶原氏によると、ある程度のセオリーが存在するという。

 「施設でサンプリングを行う際には、商品のターゲットと施設のユーザーがマッチしていることが大切です。また使用までのリードタイムも重要となってきます。たとえば、街頭でシャンプーのサンプリングをした場合。せっかく配っても、なかなかすぐには使っていただけません。受け取っていただいた方にいつ使いますかと聞くと『次の旅行や出張の時に』という回答が返ってきます。

 配布してから使用までのリードタイムが長いと、使用率も落ちますし、使用されても効果が現れるまでに時間がかかってしまうため、リードタイムの長いサンプリング場所は好ましくないとされています」

 判断基準としては他にも、顧客として安心して受け取ってもらえる場所かどうか、配布単価などが挙げられる。が、あとはリーチ人数も重要だ。ターゲットがマッチしても数百から数千を配布しても市場における一定の割合を超えられないことから、結果が出ず、工数ばかり増えていってしまうといったケースは多くある。工数対効果を高めるためは、数万〜数十万にリーチする施策を打つことが必要となってくるのだ。

サンプリングにビジネスホテルが最適な理由

 ターゲットが安定しており、使用までのリードタイムを短く、安心して配布ができる。そして数万単位のユーザーにリーチが可能。理想的なサンプリング施策における、これらの条件を満たす場所として「当社では、ビジネスホテル一択だと考えている」と梶原氏は話す。

 ビジネスホテルの場合、まず使用までのリードタイムを短くできる。また普段と生活環境が変わり、たとえば家で常備している飲食物などがホテルの部屋に存在しないため競合商品が減少し、体験してもらえる可能性も非常に高くなるのだ。加えてチェックインは基本的に夕方となることから、夕食や入浴、睡眠、散歩など様々なシーンへアプローチできる。

 ターゲットについても、パッケージや用途で明らかに男性用・女性用とわかる商品については男女のセグメントを分けることが可能だ。利用者の属性については、男性は30代〜50代、女性は20代〜40代がボリュームゾーンで、出張によく利用されることから役職高めの会社員が多い。これらの年齢層・収入層を対象とする商品の場合は、非常に効率良くサンプリングができる。

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 さらにホテルでのサンプリングは、リーチ数においても大きな効果が期待できるという。

 「たとえばAPAホテルの場合。全国で10万室以上を有しており、連泊率が低く、ほぼ毎日、新しいユーザーが訪れています。仮にコロナ禍で稼働率が半分だったとしても、毎日約5万人の新規ユーザーが全国のAPAホテルを訪れていると仮定でき、100万単位のサンプリングも一定期間内に実施できます。

 まとめるとビジネスホテルは、リードタイム、ターゲット、配布数などサンプリングにおいて望ましい条件のほとんどを網羅しており、最適なサンプリング場所であるといえるのです」

サンプリングで重要なのは年単位のLTV

 さて、ビジネスホテルという空間がサンプリングに適していることは判明したが、実のところ「どのくらい効果があるのか」はシミュレーションや振り返りをしていないことが多いという。その効果を導く方法はあるのだろうか?

 「サンプリングにおいて費用対効果を算出するのはとても難しいのが正直なところです。しかし、多くのマーケターとお話ししていく中で『ある程度皆さまに納得いただける』数式を作りました」

 そうして梶原氏が提示したのが次の数式だ。

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 ポイントはLTVに売上が用いられている点。LTVは通常、利益を当てはめるが、今回は解としてROASを導き出すため、売上を当てはめている。

 たとえば冒頭の『アタックZERO』の事例のように、大手小売店で洗剤をサンプリングした場合を仮定。試算では、まず一般的なユーザーのLTVを導き出していく。ここでは梶原氏自身を平均的な利用者とし、基本購入価格350円で購入していると仮定する。購入頻度は2ヵ月に1回くらいの割合だ。継続購入期間は、3年ほどを予定しているという。すると、この数式からLTVはおおよそ6,300円(3,500円×0.5ヶ月×36ヶ月)と導き出せるのだ。

 数式右辺にLTV以外の数字も当てはめてROASを計算してみると、あくまで仮定の数字ではあるが、このサンプリング施策の費用対効果は約4.6倍と導き出すことができた

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 「この算出方法はLTVが大きな鍵となっており、今回の事例では3年を仮置きしています。しかし、実際に平均的な継続年数として妥当であるのか、気になるところですよね?

 先ほどのアンケートと同じモニターの方々にブランドの継続意向についてヒアリングをしたところ、シャンプーは2~2.5年未満、アルコール類が3〜3.5年未満、化粧品2~2.5年未満程度、同じブランドを使い続けることが判明しました。この結果から、中長期的なLTVを試算している今回のケースとしては、ある程度の妥当性があると捉えています」

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ホテル客室テレビCMで価値向上する『サンプリング2.0』

 「サンプリングによる費用対効果を上げていくには使用率とスイッチング率を上げていく必要があると考えています。この数字を上げるのにサンプリングと一緒にホテルの客室テレビでCMを配信することが非常に有効だということがわかりました」

 ABCフロンティアの展開する『おもチャンネル』は、ビジネスホテルの客室にあるテレビを使ってCM を配信できる広告システム。ホテルの部屋に入室した際にカードキーを挿すと、部屋の照明と一緒に自動的にテレビが立ち上がり、音声付きでCMを配信できる

 ホテルにておいてサンプリングを実施する企業は、この客室テレビCM『おもチャンネル』を使い、サンプリングした商品の便益やブランドのメッセージ、世界観、商品名を訴求することで、ユーザーの商品体験とブランドをリンクさせることができる

 同社では、従来のサンプリングによる体験だけでなく客室テレビCM『おもチャンネル』によって商品の便益、ブランドメッセージの訴求を行っていくサービスを『サンプリング2.0』と呼称している。

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 『おもチャンネル』の特徴は、主に3つ。客室空間での訴求と、高いフリークエンシー、リーセンシー効果が期待できることだ。

 まず客室空間での訴求力。『おもチャンネル』を既に放映しているAPAホテルはじめ、ビジネスホテルの多くは客室に大きなテレビが備えられ、画面に集中できる環境が揃っている。ホテルで過ごす上での必要情報もテレビに表示されるシステムが導入されているため、ユーザーは必ず『おもチャンネル』に接触する仕組みとなっている。

 またユーザーが部屋に戻るたびにCMが再生されることから、宿泊者へのアンケートでは約76%が『1回以上観た』と回答。1室あたりの平均放映時間は80分であり、1ロールが20分であることを踏まえると、フリークエンシーは1日/1室につき約4回と考えられる。

 加えて、宿泊者はコンビニで買い物をすることが多いという。GMOリサーチによるアンケートでは「ビジネスホテルを利用する際、付近にコンビニがあれば利用しますか」という質問に96.8%が「使う」と回答。ビジネスホテル利用時の宿泊費以外の出費として、平均で「3,000円~4,000円未満」が中央値になっている。

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 商品ジャンルごとに購入金額の中央値(割合)を見ると、アルコール飲料は400~599円(17.5%)、ソフトドリンクは200~299円(23.9%)、お菓子・おつまみは500~599円(25.9%)。また、シャンプー、歯ブラシなどのアメニティ類も購入するという。そのためホテルの客室のテレビで訴求できるおもチャンネルは、購買の直前に使用を促すことができ、リーセンシー効果の高い媒体であるといえるのだ。

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使用率の向上で購入意向度50%アップを実現

 「最後に『おもチャンネル』をつけて『サンプリング2.0』を実施した際の事例をお伝えします」

 まず紹介されたのは、ユニリーバ・ジャパンの『AXE フレグランスボディスプレー』の事例だ。施策では、サンプリングのみのグループと、サンプリングと『おもチャンネル』を用いて客室でCMを配信したグループの、2つを用意しどちらも5,000個ずつ配布。ABテストを行った。

 結果、ホテル滞在中の使用率は、サンプリングのみのグループが33.9%だったのに対し、サンプリング+CMのグループは53.8%と、58.7%も高いパフォーマンスを発揮。またサンプリング+CMのグループでは、ホテル滞在中から1週間以内に71.0%のユーザーが商品を使用した、という結果も紹介された。

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 「施策について、ユニリーバの担当者様からは『サンプリングの使用率が上がらないことが課題でしたが、それに対し今回の施策は非常に効果的だと感じました。またブランドメッセージも一緒に伝えられることで、商品への興味喚起や購入意向も期待できると思います』といったコメントをいただきました」

 また丸善の『プロフィットささみ』でも、同等の施策を展開。こちらもサンプリング+CMのグループの使用率がサンプリングのみと比べ28.9%アップし、購入意向度については 50.9%アップと高いパフォーマンスを発揮したと紹介された。

 梶原氏は最後に、『サンプリング2.0』が挑戦する価値のある手法であることを改めて呼びかけた。

 「多くのマーケティング担当者の方は、サンプリングの有用性やその実行場所にホテルが優れていることをご存知かもしれません。しかし、ホテルの客室でテレビCMが配信できることは、まだまだご存知ない方が多いかと思います。

 今回ご紹介したように、商品体験とCM配信をセットにすることで使用率や購入意向を大きく押し上げる効果があります。この方法がブランドスイッチを促す最も効果的な方法だと思います。マーケティングにおいて強力なツールですので、ぜひ小ロットでトライアルしていただき、効果を実感していいただいた上で大規模な施策として取り入れていただきたいです」

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この記事の著者

タカハシ コウキ(タカハシ コウキ)

1997年生まれ。2020年に駒沢大学経済学部を卒業。在学中よりインターンなどで記事制作を経験。卒業後、フリーライターとして、インタビューやレポート記事を執筆している。またカメラマンとしても活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2022/05/31 12:00 https://markezine.jp/article/detail/38727