どんな無駄や非効率が生まれてしまうのか?
──概念図を見ると、クリエイティブと広告運用の下流工程では、ファンダメンタルズとテクニカルのアプローチを併用することになっています。どのように進めていくのか、具体的に教えてください。
リスティング広告で考えてみましょう。ファンダメンタルズ的な発想では「この商品はこんな人に好まれそうだから、こういうキーワードで出そう」と、ユーザーを起点に考えていきますよね。たとえば、首のしわ向けスプレー。首のしわを気にする人がどういう生活をしているかというと、ストールを着用されるが多いんです。ということは、この商品はストールを検索している人にも売れるのではないかと、仮説を立てることができますね。
一方、キーワードアドバイスツールが出してくれる候補には、多くの場合、ユーザー起点でないキーワードが混ざっています。ツールは「このキーワードで検索している人はこういうキーワードで一緒に検索します」ということを提示しているに過ぎないからです。それをそのまま運用しても、非常に効率が悪く、当然CPAも高騰します。
ファンダメンタルズ的な発想で人間の感情を踏まえた仮説を出し、ツールを使ってその答え合わせをしたり、精度を高めたりするというのが、本来的な使い方です。リスティングで言えば、ユーザー起点で仮説を立てた上で、ツールを使って出てきたたくさんのキーワードからユーザー起点ではないものを削っていくという手順が、一番効率が良いと思います。
もう一つ、インターネットが普及する前はマス広告が主流でしたので、いまのような精度の高いセグメンテーションはできませんでした。ではどのようにセグメントを行っていたかというと、クリエイティブの力を活かしていたのです。単純な例を挙げれば、事前のコンセプトワークでターゲットを関西の人と設定すると、ターゲットに振り向いてもらうためにクリエイティブで「なんでやねん」と書く。このようにユーザーを理解し、どう伝えれば伝わるかを考え抜いていたのです。それがWebでは、セグメント機能を使うことで、配信対象を「関西の人」などと絞り込むことができるようになりました。よって、事前のコンセプトワークでターゲットを明確にしていれば、非常に効率よくターゲットにプローチできるのです。それなのに、まずは全国の人に広告を出して、その結果を機械学習にかけて一番反応が良い人たちを探す……とやっていると、いくら広告予算があっても足りません。
──ファンダメンタルズとテクニカルのイメージが明確になってきました。再び概念図に戻ると、ファンダメンタルズの領域には、情報収集とコンセプトワークが含まれていますね。
これらの領域では、記者が取材をして記事を書くのと近いことをやっています。記者は取材相手が言いたいことをそのまま書くのではなく、読者が知りたいことが何かを考えて、読者の代表として質問していきますよね。相手の説明がわからなければわかるまで何回も確認し、「つまり、こういうことでしょうか」と、より伝わりやすい表現を探します。そうすると、読者に刺さる記事ができていきます。マーケティングも一緒です。ユーザーの代表として、ユーザーが知りたい要素を、メーカーさんや商品開発の担当者から引き出したり、自分で裏取りしたりしていきます。
ちなみに記者の方は、取材が終わった段階で、この記事がいいものになるかどうかがある程度わかると言います。良いネタが得られていないのに、記事を書く段階で挽回しようとしても、どうにもならない。マーケティングも実は取材した段階で、その商品が売れるか売れないがわかります。取材がしっかりとできる人は、売れる商品を見極めるのが上手で、どの商品のマーケティングにどのくらいのリソースを割くかを的確に判断できます。