※本記事は、2022年6月25日刊行の定期誌『MarkeZine』78号に掲載したものです。
特集:現場に再現性をもたらす マーケターが知っておきたい手法&フレームワーク
─ 音部大輔氏が考える、マーケティングにおけるフレームワークの有効性 実務に活かすためのポイントは?
─ 顧客視点で“つながる意味”を再考する「4P×エンゲージメント」
─ マーケティングにはファンダメンタルズ×テクニカルの両輪が欠かせない(本記事)
─ ヒットを生み出すリサーチ術とは? 正しい「ターゲット」「セールスポイント」を見つける3ステップを解説
─ マーケティング・ミックス・モデリングを正しく行うためのヒント
─ マーケターがクリエイティブを「見る」「評価する」「議論」する時の基本姿勢
マーケティングにはもっとできることがある
──木下さんは2022年4月に『ファンダメンタルズ×テクニカルマーケティングWebマーケティングの成果を最大化する83の方法』(実業之日本社)を上梓されました。本書ではWebマーケティングの全体像について、ファンダメンタルズとテクニカルに分けて捉えることを提唱されています。この考え方について、概念図(図表1)とともに教えていただけますか。
ファンダメンタルズマーケティングとは、商品そのものやユーザーのペルソナ、インサイトを分析してコミュニケーションを設計することを指しています。ここで重要になるのは、データからいかに人間の感情を読み取るかということです。一方のテクニカルマーケティングは、クリック率や遷移率、購入率、キーワードなどの数値化できるデータのフィードバックを基に、コミュニケーションを設計していくやり方です。
ファンダメンタルズとテクニカルは、株式投資の世界で使われてきた用語です。対象企業の事業内容や業績などを分析して将来性を検討し、投資判断をするファンダメンタルズ投資に対し、対象企業の株価の値動きから相場を分析して投資判断をする手法をテクニカル投資と言います。ネット証券の誕生でテクニカル投資が盛んになったことで、対象企業がどんなビジネスをしているか知らないまま投資し、利益を上げる人も出てくるようになりました。
Webマーケティングの業界でも、似たような変化が起きているように見えます。極端な言い方ですが、テクニカルマーケティングを使えば、商品やお客様のことをまったく知らなくてもある程度のことはできてしまう。ただし、相場という独特の世界観がある金融の世界とは異なり、マーケティングにおいては、ファンダメンタルズとテクニカルの両輪を回していくことが不可欠です。
──確かに顧客や商品の理解が不十分なまま最適化を続けても、どこかで行き詰まってしまうことは多いですね。
はい。見ていて非常にもったいないのは、テクニカルマーケティングで行き詰まったときに「もう打つ手がない。商品やビジネスそのものがダメなんだ」と判断する人が増えていることです。テクニカルがマーケティングのすべてだと思っているのでそう考えてしまうのかもしれませんが、マーケティングはそんなに狭い世界ではありません。テクニカルでうまくいかないときは、ファンダメンタルズに戻ってみればいい。マーケティングにはもっとできることがあるということを伝えたくて、本書を執筆しました。