※本記事は、2022年6月25日刊行の定期誌『MarkeZine』78号に掲載したものです。
特集:現場に再現性をもたらす マーケターが知っておきたい手法&フレームワーク
─ 音部大輔氏が考える、マーケティングにおけるフレームワークの有効性 実務に活かすためのポイントは?
─ 顧客視点で“つながる意味”を再考する「4P×エンゲージメント」(本記事)
─ マーケティングにはファンダメンタルズ×テクニカルの両輪が欠かせない
─ ヒットを生み出すリサーチ術とは? 正しい「ターゲット」「セールスポイント」を見つける3ステップを解説
─ マーケティング・ミックス・モデリングを正しく行うためのヒント
─ マーケターがクリエイティブを「見る」「評価する」「議論」する時の基本姿勢
顧客視点のエンゲージメントから考える「エンゲージメント4P」
──エンゲージメント4Pとは、どのようなフレームワークでしょうか。
奥谷:エンゲージメント4Pとは、ジェローム・マッカーシーが提唱したマーケティング4P(Product・Price・Place・Promotion)をベースに、エンゲージメントの要素を加えてPlaceの意味を再定義した循環型マーケティング思考のフレームワークです。特徴は、顧客とのつながりをエンゲージメントと捉え、これを実現するためのモデルとして考えるところ。その中で最も重視するのがPlaceです。
マーケティング4PではPlaceは「販路」とされてきましたが、エンゲージメント4Pでは店舗や棚ではなく、「顧客との接点すべて」がPlaceであると捉えます。そして、顧客とのつながりを、顧客の視点から「その企業とつながる価値」と考える。これまでは、企業視点の囲い込みを目的としたつながりが優先されてきましたが、それでは顧客のことは何もわかりません。本当の顧客価値とは、なぜお客様は自社とのつながりを維持してくれているのか? の理由の中にあります。そのつながりの積み重ねが、エンゲージメントなのです。
岩井:マーケティング4Pでは4つのPが並列ですが、エンゲージメント4PではPlaceからエンゲージメントが生まれ、Product・Price・Promotionへ派生していくと考えます。顧客が自社とつながり続けている理由と、そのための場さえ持てれば、Product・Price・Promotionは、顧客にとって最適なものを可変的に提案できるという考え方です。
たとえば、サブスクリプションでフィットネス・プログラムを提供するアメリカの企業ペロトンは、家庭用のスマートバイクを開発・販売していますが、エンゲージメント4Pを用いると、それはProductではありません。同社にとって、スマートバイクは顧客との接点のPlaceであり、ここを基点としたフィットネス・コミュニティであると考えることができます。