日本企業の存在感目立った2024、注目集めた3つのトピック
2024年に初開催されたNRF APAC 2024では、3つのトピックが特に注目を集めました。1つ目は、AIやデータを駆使した顧客第一主義のデジタル活用。2つ目は、リテールメディアを活用した新たなマネタイズ戦略とデータ活用の高度化。3つ目は、迅速な技術実装を可能にするアジア市場の特徴と、日本企業の存在感です。各トピックは、実務に直結する事例とともに議論され、参加者に多くの気づきを与える内容となっていました。

顧客第一主義とデジタルイノベーション
NRF APAC 2024では、多くの企業が「顧客第一主義」を軸にしたデジタルとCXの融合の重要性を語っていました。電通の木村氏は「アジアはネット人口も多く、特にモバイル経由での顧客接点が活発。日本のリテールもこれにならい、よりきめ細かい顧客体験を構築すべき」と強調しています。
実際、AIによる音声注文やリアルタイム通知を可能にしたドミノ・ピザの事例や、ファーストリテイリングの在庫最適化の取り組みが紹介されるなど、顧客理解を前提としたデジタル投資による成果が出つつあります。イオンも「温かみあるCX」をテーマに、アジアの顧客ニーズに寄り添ったアプローチをブースで発信。デジタルの活用が目的化するのではなく、“体験価値の最適化”という本質を捉えた企業が評価されたイベントになっていました。

リテールメディアとデータ活用の最前線
NRF APAC 2024では、小売業の新たなマネタイズ手段として注目されるリテールメディア領域において、その重要性と課題が多角的に議論されました。中でも注目を集めたのが、元コカ・コーラのサイモン・マイルズ氏による「4C」モデルの提唱です。
Consumer Focus(顧客起点)、Clarity(透明性)、Capability(実行力)、Collaboration(連携)の4つが、持続可能なリテールメディア運用の鍵であるという視座が示されました。
筆者はRoktで国内企業のリテールメディア化の支援を行っていますが、日本市場においてはClarityとCapabilityは一定水準に達しているものの、Consumer FocusとCollaborationの点で改善の余地があると考えています。特に国内のリテールメディアは、EC部門に閉じた取り組みとなっているケースが多く、商品開発やカスタマーサービスを巻き込んだ全社的な連携が今後の課題となってきます。
単なる広告枠の販売ではなく、リテールメディアを通じていかに顧客体験を高め、売上に寄与させるか。NRF 2024 APACの現場からは、リテールメディアの本質を問い直す内容を学ぶことができました。
アジアの実践的アプローチと日本のリーダーシップ
NRF APAC 2024では、アジア市場ならではの「実装力」に注目が集まりました。電通の堀田氏は「アジアには財閥系やオーナー企業が多く、トップダウンによる意思決定が迅速。そのため、新技術の導入から本番展開までのスピードが圧倒的に早い」と述べ、アジアの実行力に驚きを見せています。
また、木村氏は「ユニクロ(ファーストリテイリング)やイオン、ドン・キホーテなど、日本のリテール企業はキーノートでも強い存在感を示していた。APAC市場で十分に通用するポテンシャルがある」と語り、日本発のモデルがグローバルに波及する可能性を感じたと振り返っています。
その中でもイオンは、持続可能なサプライチェーンの構築をテーマに、ブロックチェーンを活用した食品トレーサビリティの取り組みを紹介。デジタルと社会課題解決を両立する姿勢が高く評価されました。未来志向の構想が中心となる米国開催のNRFに対し、APACでは「いかに現場で動く仕組みに落とし込めるか」が重視された印象です。その実践性を体現したのが、日本企業の強みであり、今後のリーダーシップの礎となるでしょう。
NRF APAC 2024は、戦略レベルから現場実装までを網羅した、実務重視のカンファレンスとして機能しました。顧客理解を起点としたデジタル投資、リテールメディアの事業化、そしてアジアならではのスピード感ある導入プロセスが共有され、特に日本企業のリーダーシップ発揮が印象的でした。変化を実装に落とし込む具体解が多く提示された点が、参加価値を高める要素となりました。