西口一希氏が提示する、顧客起点の経営論
今回紹介する書籍は『企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営』。著者は、ロート製薬の「肌ラボ」、ロクシタンジャポン、スマートニュースなど、事業会社で多岐にわたる商品やサービスを成長させてきた実績を持つ、Strategy Partners 代表の西口一希氏です。
2019年に刊行した西口氏の著書『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング(MarkeZine BOOKS)』に大きな影響を受けた読者の方も多いのではないでしょうか。前著には「顧客起点マーケティング」の実践手法が盛り込まれ、刊行から3年経った今もなお、マーケターのプレイブックとして活用され続けています。
今回の新刊では、200社を超す企業の経営者に助言し、40社以上のコンサルティングに携わってきた過程で、西口氏が確信した「共通の経営課題」の原因を紐解き、解決するためのフレームワークと実践方法がまとめられています。
経営と顧客の関係を可視化し、顧客理解を経営に実装する
西口氏が指摘する最大の経営課題とは、「経営から顧客が見えなくなっている」ことです。創業時には顧客理解ができていたとしても、売上が拡大し、組織規模の拡大に伴い、実在の顧客と自社のプロダクトとの関係が見えなくなってしまうのです。BtoC、BtoBを問わず、いわゆる大企業病を克服し、成長の壁を突破するために、経営がどうやって顧客理解を取り戻すべきか。本書では3つのステップ「顧客の心理と顧客の行動の関係」「顧客の多様性」「顧客の変化」が示されています。
そして、顧客起点の経営を実現するための3つのフレームワーク「顧客起点の経営構造」「顧客戦略(WHO&WHAT)」「顧客動態(カスタマーダイナミクス)」が提示され、各章で解説されています。
「顧客戦略(WHO&WHAT)」や「顧客動態(カスタマーダイナミクス)」のフレームワークは、前著を読んでいる方にとっては身近で、実際に手を動かして取り組んだ経験のある方も少なくないでしょう。そして「顧客起点の経営構造」のフレームワークは、経営と顧客の関係を可視化することで、マーケティングと経営が断絶している現状を打破する契機となります。
これらのフレームワークを実行するには、経営層が手を動かすだけでなく、これまで顧客戦略を担ってきたマーケティング部の知見が不可欠です。これまでマーケティングの現場にとどまっていた顧客戦略を、全社ごととして経営戦略に結びつけるために、マーケターができることは何か、ぜひ考えて実行してみてはいかがでしょうか。視座を上げる契機になると思います。
顧客起点の経営を実装する企業のケーススタディは必読
本書では、これらのフレームワークを使って、ロクシタンやスマートニュース、マクドナルド、ロイヤルホスト、Amazon、iPhoneなど、多数のブランド・製品の分析事例が掲載されています。その中でも、第4章で紹介されていたアソビューのケーススタディは、とても印象的でした。
アソビューは、観光・レジャーなどの遊びの予約サイトを手掛けるBtoCサービスと、観光・レジャー産業向けにSaaSの予約システムなどを提供するBtoBサービスの双方を展開しているスタートアップ企業です。コロナ禍により事業に逆風が吹いた際、顧客との対話からユーザーとクライアントが直面している課題を可視化し、顧客戦略をアップデ―ト。その取り組みの中で、自社にとって直接的ではない課題であっても、価値のバリューチェーンの中で自社が解決すべきものと捉え、システムを開発・提供した顧客戦略は、起死回生の一手となったそうです。
顧客起点で考えたからこそ、顧客の直面している課題が自社の課題だと捉えることができたのです。顧客の成功を起点にしたマーケティングを、顧客起点の経営に組み込んでいる良例です。
本書は経営者向けの実務書ですが、マーケティングの現場で日々業務を担う読者の方々にとっても、部門の取り組みを全社ごと化し、経営へのインパクトを示す道筋のヒントが詰まっています。自社でのマーケティング活動を経営ごとにするために、本書を活用してみてはいかがでしょうか。