ユーザーと企業の距離感が近いTwitter、その活用が課題に
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回NTTドコモでは、Twitter Japanと広告代理店、3社でタッグを組み積極的な活用を進め、大きな成果を上げたそうですね。この取り組みは、そもそもどのような経緯で始まったのでしょうか。
川中嶋:1年半前にSNS担当になり、Twitterアカウントの状況を見て改めて感じたのは「お客様との間に距離を感じる」という課題でした。Twitterは、個人的に最もお客様との距離が近い場所になれる可能性のある接点だと思っています。しかし、Twitter利用者の方を見るとNTTドコモに対して堅いというイメージがあり、Twitterの持つポテンシャルを活かしきれていませんでした。
MZ:Twitterがお客様と距離が近いと感じるのはなぜでしょうか。
川中嶋:Twitterはリアルタイム性が高く、ツイートに対するリツイートやいいねなどの反応速度が速いからですね。そのため、Twitter上のコミュニケーションを強化し「NTTドコモの発信によって、人々に笑顔になってもらいたい」という思いを実現したいと考えました。
投稿してもユーザーの反応がイマイチだった理由
MZ:ユーザーとの距離感があったとのことですが、具体的にどのような課題がありましたか?
川中嶋:最大の課題は反応が薄いことでした。当時はツイートすると多少はいいねが付くものの、リプライやリツイートなどが少ない状況でした。
これまでNTTドコモの製品やサービスに関する情報など、企業が伝えたいことだけを一方的にツイートするだけのアカウントだったことが、このような状況を作っていました。
NTTドコモの公式アカウントとして伝えなくてはならない情報は膨大にあります。サービスの説明やプランの変更に関する情報はもちろん、BtoB向けに行った実証実験に関するニュースなどもあります。
これらの情報を全部伝えた結果、振り返ってみると、コミュニケーションの観点が抜け落ちてしまっていたと感じています。
広告主、Twitter、代理店が一体となり改善した点とは?
MZ:コミュニケーションの改善に向けて、どのような取り組みを行ったのか教えてください。
川中嶋:まず、広告代理店の方にNTTドコモの社内に常駐してもらい、コミュニケーションについて試行錯誤できる体制を作りました。こうすることで、「一方通行になるからこの投稿は止めたほうがいい」「○○な表現にしたほうが、コミュニケーションが生まれる」といった、プロの視点でツイートの企画・制作が可能になりました。
MZ:Twitter Japanの山中さんも支援をしていたとのことですが、どのようなサポートを?
山中:主に広告プロダクトの活用支援や、プラットフォームのアップデートに関する情報提供を行っていました。また、先ほど話に出たようなユーザーとの距離の近づけ方についても、Twitter Japanが持つ知見を共有させていただきました。
また、NTTドコモさん、広告代理店さん、Twitter Japanの3社による定例会を設け、オーガニック運用で見るべき指標やTwitter上のデータを確認しています。さらに、オーガニック/広告にかかわらずオーディエンスの心をつかんだ成功事例について共有し、今後の方向性や施策を話し合うようにしています。
MZ:今回の取り組みでは、どのような指標をKPIに置いていたのでしょうか。
山中:フォロワー数や投稿に対するエンゲージメント(リツイートやリプライ)に加えて、アクティブフォロワー率(1ヵ月間でNTTドコモの投稿を見たアクティブなフォロワーの率)、合計情報接触者数(合計のリーチ数)を見ていました。これらのKPIを見ながら、PDCAサイクルを回していきました。
フォロワー拡大と既存フォロワーの楽しみを生む広告を
MZ:具体的にどのような施策を展開されたのか、教えてください。
川中嶋:今回の取り組みでは「NTTドコモの公式Twitterアカウントがたくさんのお客様とつながり、その方々にとって一番近い場所であること」「近い存在になってその人を笑顔にすること」の実現を目指しました。
川中嶋:そのために最初に実施したのが「たくさんのお客様とつながる」こと。フォロワーをいち早く増やすべく、2021年にインスタントウィンを活用したフォロー&リツイートキャンペーンを4回実施し、クリスマスボックスへの協賛も行いました。このキャンペーンは、フォロワーを増やすだけではなく、既存フォロワーの方々に対しても「Twitter上で笑顔になってもらう」狙いもありました。
また、プロモアカウントやプロモツイートといった広告プロダクトも活用しました。プロモツイートではインスタントウィンの拡散を狙いました。
4つの軸でツイートを投稿
MZ:ここまでは広告やキャンペーンが中心でしたが、オーガニックではどのようなコンテンツを投稿したのでしょうか。
川中嶋:オーガニック運用では、大きく4つの軸でツイートを投稿していました。
1つ目は、世の中のモーメントを捉えたツイートです。たとえば、5月13日は「愛犬の日」なのですが、チーム内に犬を飼っているメンバーがいたので、その愛犬の写真を載せて「よかったらみなさんの愛犬の写真も見せてもらえませんか」と投稿しました。このような中の人の顔が見えて、フォロワーの方との距離が縮まる投稿を定期的に行っています。
川中嶋:2つ目は、キャラクター・タレントとコラボレーションしたツイートです。たとえば、NTTドコモのキャラクター「ドコモダケ」の生活シーンを描いたイラストを用いたツイートを行ったり、テレビCMに出演いただいているタレントがNTTドコモに関してツイートしていたときに、その投稿を引用ツイートして会話したりしています。
3つ目は、通信障害や災害情報などの緊急アナウンスツイートです。地震や通信障害が発生した場合に「スマホがつながらないのは自分だけだろうか?」とお客様が困惑しないよう、Twitterを通じてすぐに情報を伝えています。楽しんでもらうことはもちろんですが、安心してNTTドコモをご利用いただくことも大切にしています。
そして、4つ目は製品に関するシナリオツイートです。これはまだ試行錯誤を進めているところですが、単に製品の発売告知を出すだけでなく「その情報を見たお客様は次に何を思うか?」と考えシナリオを作成し、それに基づきツイートしています。
たとえば、新しいiPhoneが登場する告知をした後「どこで買おう」と迷っているお客様を想定して、オンラインショップでの購入方法をお知らせする。また、「何色を買おう」と悩んでいる方向けにTwitterのアンケート機能で人気色を調べるなど、Twitter利用者の行動に対応した投稿を意識して、製品に関する情報をお届けするようにしています。
フォロワー数は70万、リツイート数も大幅に増加
MZ:こうした施策の結果、どのような成果が得られたのでしょうか。
川中嶋:まず、Twitter上の数字だとフォロワー数が約70万に到達しました。1年間で20万の増加です。フォロワー数が増加したことで、普段の投稿のリーチが格段に広がりました。
また、リーチだけでなくエンゲージメントも深まっています。2021年4月時点の1ヵ月の投稿に対するリツイート数はキャンペーンを除くと約4,000件でした。しかし、2022年3月末にはリツイート数が3万件近くになっており、大幅に増加しました。さらに、お客様からもリプライなどを通じてポジティブな反応をいただけるようになりました。
山中:ユーザーからのメンションやコメントなどのデータを2020年4月~2021年3月までと2021年4月~2022年3月まででポジネガ分析したところ、ポジティブの比率が上がっていることがわかりました。
MZ:1年間、Twitterの活用を強化してみて、どのような学びや気付きがありましたか?
川中嶋:まず、企業アカウントの中の人が自己開示をすると、お客様側も自分のことを教えてくれることがわかりました。企業に対して自分のことを教えるのはハードルが高いと思います。先ほどの愛犬の日の例もそうですが、企業から「自分たちはこうしているけど、みなさんはどうですか?」と会話のきっかけを作ることで、お客様もそれに応えてくれるのだと感じました。
次に緊急アナウンスツイートの重要性です。災害や電波障害が発生すると、情報を求めるためにTwitterを見る人は多いと思います。そこに対し、企業アカウントが適切な情報を流すことで安心につながることがわかりました。
そのため、今後も企業として伝えなければならないツイート、お客様との距離を近づけるためのツイート、双方のバランスを取りながら信頼されるアカウントを目指していきたいと考えています。
日本を代表するTwitterアカウントに
MZ:山中さんにお伺いします。今回、ドコモさんが大きな成果を上げたことについて、その要因はどこにあるとお考えですか?
山中:通常、オーガニックのアカウント運用は誰か1人が独自に展開しているケースが多いのですが、NTTドコモさんは戦略的かつ真摯に、しかもチームで取り組まれていたことが成功の要因だと思います。オーガニックをベースにしながら、必要があれば多くの人に届けるために広告も活用していく。そのバランス感も重要です。
また期初にゴールをしっかりと定め、できていることやできていないことを明確にしながらPDCAを回している点も素晴らしいです。Twitterを活用する目的や目標は様々ですが、アプローチの仕方は他の企業でも取り入れることができると思います。
MZ:今後、どのようにTwitterを活用していくのか教えてください。
川中嶋:目指すべき姿、あるべき姿として「安定した企業発信」と「中の人による温かみと親しみのある投稿」のバランスが取れた、日本を代表するアカウントと定めています。お客様ともコミュニケーションを図るし、企業発信も真摯にやっていく、このバランスを取ることがドコモのあるべき姿だと思っているので、そこを目指して施策に取り組んでいきます。