人事とマーケティングの考え方は同じ
富永:1つ目のトピックは「組織をどういう眼鏡で見るか」です。私は「マーケティングとは何か」と聞かれたら「商品を届けたい相手がどうすればこちらの望む態度変容をしてくれるか、考えて実行すること」と答えるようにしています。これは相手が消費者ならマーケティングになりますが、同じことを社内に向けて実行すると人事になるのではないでしょうか。
富永:私が尊敬するブランドの1つに、スターバックスがあります。同社の要職に就く友人に「なぜスタバの従業員は揃って感じが良いのか」と尋ねたところ、ある秘密を教えてくれました。友人曰く、店長が新しく入った従業員に「あなたの好きなドリンクをお客様にお薦めしてみて」と促すそうです。
商品をお薦めしたお客様から「美味しかった」「ありがとう」というフィードバックが返ってくると、従業員は大きな喜びを感じると同時により良い接客を心がけようとします。このサイクルが全店舗に通底する“感じの良さ”を生み出しているのでしょう。
マーケティングの眼鏡をかけてスターバックスという組織を見つめると、ブランディングは一般的にイメージされる狭義のマーケティングの枠を遥かに超える営みであることがわかります。ブランドにおいて最大のビークルは人、つまり従業員というわけです。では、人事の眼鏡を通すと組織はどのような姿に映るのでしょうか。
永島:今のお話を聞いて、マーケティングと人事の考え方は全く同じだと確信できました。私が人事担当者として最も大事にしているのは、従業員の好奇心や価値観を言語化し、会社のミッション・バリューとコネクトすること。そうすれば、生産性の高い組織をつくることができるからです。
営業目線のマーケティングは商流をつくること
富永:自社の掲げるミッションを知らない従業員もいる中、永島さんはどのようにして従業員の好奇心と会社のミッションを接続させているのでしょうか。
永島:従業員1人ひとりのニーズをデータで定量化し、必要なアクションを提案していきます。マーケティングの世界では当たり前に行われていることかもしれませんが、人事の世界ではあまり取り組まれていません。従業員が本当にやりたいことを真剣にリサーチすることと、その人の好奇心や価値観に合った配置ができているかチェックする姿勢が大切です。
徳重:人事配置や組織体制の変更を、企業が発する重要なメッセージとして捉えるのは営業の基本的な考え方です。営業の眼鏡をかけて組織を見つめると、クライアントの意図や実現したいことがクリアに見えてきます。
徳重:営業目線のマーケティングとは、1つのソリューションを売るためにセグメントを分けて、ターゲットに応じた売り方を磨き込むことだけではありません。クライアントのニーズをどんどん掘り起こして、100万円の提案が1000万円、1億円になるような商流をつくっていくことです。そのためにはクライアントの課題を明確に定義し、既存の意思決定プロセスから外れたところにいるキーパーソンも見極める必要があります。
富永:確かに、企業が直面している課題はどこかの部署に固有の問題というよりも、アメーバのように複数の部署を横断しているケースがほとんどです。「この案件の承認プロセスにおけるキーパーソンはどう考えてもマーケティング本部長だ」と思っていたら「本当にアプローチすべき人は営業やファイナンスのチームにいた」というのはよくある話です。