デジタルサービスの浸透と顧客ロイヤリティの関係
ニューノーマル時代になり、様々なデジタルサービスの活用が進んでいる。そのトレンドを見ると、特にオンラインショッピングやキャッシュレス決済、セルフレジといった決済関連の利用経験率が高くなっている。一方、バーチャル接客やライブコマースといった販促関連のものについては、まだ利用経験率が1割以下にとどまるものがほとんどだ。
デジタルサービスの利用率を上げ、顧客の利便性を高めることは大事だが、それだけではユーザーに愛されるサービスとはならない。NPS(推奨者と批判者の差による顧客ロイヤリティの指標)を見てみると、オンラインショッピングとモバイルオーダー、オンライン接客のスコアが高く出ている。
一般的に、NPSスコアは「物理的要件」と「心理的要件」の2つを満たすことで上がると言われている。前者は「行動が便利になる、お得になる、判断が容易である、安全である」といった要素を指す。後者は「楽しい、驚きがある、安心できる、心地よい、認められる、自分がよいことをしていると感じる」といった感情を揺さぶるような要素のことだ。
しかし、この2つを満たすだけでは、NPSのスコアは必ずしも上がらないと岡本氏は語る。
「先ほどの図でネットスーパーを見ると、行動が便利になるという物理的要件や、近所の店舗では見たことがない商品をレコメンドされる楽しみなどの心理的要件も満たしていると思われるものの、NPSのスコアはマイナス45.9と低めに出ています。私たちはNPSを上げる1つの要素として、“リテールヒューマニティ(人間らしさ)”があるのではないかと考えています。これを『自分らしい生活の中で、違和感なくサービスの恩恵を享受できること』と定義しているのですが、物理的要件と心理的要件を満たした上で、その循環をリテールヒューマニティで完結させると、消費者に支持されるサービスになっていきます」(岡本氏)
テクノロジーの進化は人間らしさと相反するのか?
デジタルサービスにおけるヒューマニティについては、ネガティブな話題となることも多い。技術革新によって、企業はテクノロジーに集中しすぎるあまり、人間的な要素を持つ接点を失ってしまったのではないかという声もあるからだ。
しかしテクノロジーが進化すると、ヒューマニティは本当に失われるのだろうか。テクノロジーの多くは、人間の能力を再現することに取り組んできた。たとえば考えることがAIに、感知することがセンサー技術に置き換わり、人間が行ってきたことをマシンが行うのだからヒューマニティが失われるはずはない。
ただし、人間とマシンでは得意領域が違ってくる。情報処理を知恵、知見、知識、情報、データ、ノイズの6段階で分類すると、知恵と知見、ノイズは人間が得意なもの、知識や情報、データはマシンが得意なものだと言われている。
逆に知恵や知見、ノイズがあるように見せていくと、人間らしいと捉えられるようになっていくという考え方もできる。つまり、ユーザーが「人間らしさ」を期待する部分では、ハイテクノロジーの利用に関わらず「人間らしい振る舞い」をサービス提供者側は用意しなければならないのだ。マシンなのか人間なのかという二項対立的考え方ではなく、それぞれの強みを活かし、組み合わせることで「心地よい体験」を提供することが理想的だと言える。