近年注目を集めるリテールメディアとは?
商品が消費者に届くまでのプロセスの中では、大きく分けるとモノを作るブランド企業(広告主)とそのモノを仕入れて販売するリテール企業(小売企業)という、2つのプレーヤーが存在する。基本的に、店舗を持ったりECサイトを運営したりするのはリテール企業だ。だが、EC市場やD2Cの取り組みの拡大により、ブランド企業が店舗やECサイトを持って直接商品を販売するケースも増えてきている。
リテール企業の持つ、オンライン・オフラインにおけるユーザーとの接点。これを媒体として活用することがリテールのメディア化、つまり「リテールメディア」として、近年大きな注目を集めているのだ。
「ユーザーとのタッチポイントを効果的に創出できることから、元々リテールメディアはデジタルマーケティングにおいて有効だとされていました。そこにサードパーティーCookie規制が起こったことによって、リテールメディアはさらに重要視されつつあります」と山崎氏は話す。
「今後サードパーティーCookie規制が進んだ際、ブランド企業がどうやってユーザーとの接点を持つかは大きなテーマです。そこを見据えて、これまでもオムニチャネルやOMOなどでユーザーとのエンゲージメントを高める取り組みがされてきました。アプリやソーシャルネットワーク、コールセンターも手段として重要になってくるでしょう」と山崎氏は話す。
従来の広告形態の6倍以上のCTRを誇るリスティング広告
サードパーティーCookie規制の話の前に、まず広告としてのメディアサイトの有用性を振り返ると、デジタルマーケティングの歴史が始まったのは1990年代。純広告やコンテンツマッチ広告が出現した。そしてさらに時代が進み、リスティング広告が開発された。
リスティング広告の歴史は、Googleの台頭と切っても切り離せない関係にある。リスティング広告を導入するまで、Googleは検索エンジンとして膨大なインデックスを持ちながらもそれを売り上げに変換する手段を持っていなかった。しかし検索連動型広告という形態を導入したことでその状況が一変、とてつもない収益力を誇る会社となったのだ。
「たとえば、Googleの検索欄で『スニーカー』と検索した人にスニーカーの広告を出したい企業は一般的に多いでしょう。ユーザーの検索に紐づいて広告を出すことは、その瞬間ユーザーが何を求めているのか? ということに対して、直結する広告が出せることを意味します」と山崎氏。実際、リスティング広告のクリック率は6.18%、それに対しショッピング広告は0.86%、ディスプレイ広告は0.35%。大きな差が存在するという。
AmazonやWalmartも!広がるリテールメディア×リスティング広告の動き
検索した瞬間のモチベーションの高いユーザーにアプローチできるというリスティング広告の特徴を応用し、それをリテールメディアと組み合わせる動きが近年出てきた。
ECサイト内で検索行動をするユーザーは、インターネット上で検索行動をしているユーザーよりも購買意欲が高く、ブランド企業にとって重要な存在だ。またリテール側の視点では、新たな売り上げ獲得の手段となり得る。何より、ECサイト内でのリスティング広告ならサードパーティーCookie規制の影響も関係ない。
このように高い広告効果が期待できる場であれば、そこに出稿したいブランド企業が増えるのも自然な流れだ。加えてユーザー側としても、検索と連動しているためリターゲティング広告のような煩わしさを感じづらく、むしろその企業への好意度が上がりやすいと考えられる。
既にAmazonは、自社サイトをリテールメディアとして活用。ECサイトの売り上げも拡大している中、3年間で3倍の広告事業収益(推計)を生み出している。Walmartも同様の動きを行っており、2021年の広告収益は前年度比で約2倍となった。
「紹介したような欧米での動きが日本に浸透するのには時間がかかりますが、来年か再来年あたりには日本のリテールメディア元年が訪れるのではないかと感じています」と山崎氏はいう。
レビューもリテールメディアの力を高めるコンテンツの一つ
山崎氏によれば、リテールメディアにおいてさらに新しい流れが生まれつつあるという。それは、UGC(User Generated Contents)と呼ばれるユーザーの生成するコンテンツを活用し、リテールECサイトのメディアとしての力を強化しようとする動きだ。
ECサイトにおけるUGCとは、口コミ(いわゆるレビュー)を指す。リテールECサイトでユーザーが積極的に投稿をする状況を作れば、リテール企業側の一方的な発信に終わらず、ユーザーの投稿自体もメディアコンテンツとして機能していくのだ。
山崎氏が紹介した統計データでは、レビューに対し何らかのアクションを取っているユーザーは120.3%CVが高くなることが示されている。他にもレビューが付いている状態のCVの高さや、おすすめ度を示す星の数によるCVRの変化からも、レビューの有効性は明白だ。
「実際私も、ECサイトで年間200〜300件ほど買い物をしていますが、レビューが0のものはなかなか購入に踏み切れません。またおすすめ度を示す星の数が多くても、レビューが極端に少ないと信用していいのか不安に感じてしまいます」と山崎氏は自身の経験も紹介。
現在はレビュー機能のないECサイトもまだまだ存在しているが、これからはレビューの付いていないモノが売れなくなるだけでなく、レビュー機能がないECサイト自体も伸びづらくなってくるのではないかという。
Q&Aやハッシュタグ機能の活用で“コマースSNS”へ
現在、レビューは発展を遂げ「Q&A機能」として進化しているという。Q&Aといっても、いわゆる企業がユーザーからの質問を想定してあらかじめ回答を用意しておく機能を意味するものではなく、レビューを通して購入済みユーザーや企業・店舗のスタッフが購入を検討しているユーザーの疑問を解決するという、双方向性を持った機能を指す。
このQ&A機能は、Amazonなどのリテール企業だけでなく、Appleといった大手企業も取り入れているという。「投稿されたレビューを起点にやりとりが生まれており、リテールECサイトのメディアとしての価値を高める非常に有力なコンテンツです」と山崎氏は説明した。
データで見ても、Q&Aを介して回答すると98%CVが向上するなどその影響力を示す結果が出ている。つまりECサイトでCVを上げるためには、いかにモチベーションの高いユーザーにタッチするかがポイントであり、検索内容やレビュー、Q&Aは重要な要素となってくるのだ。
加えて、ハッシュタグ(#)機能もUGCの典型的な例の一つであり、ECのメディア化を目指すうえで重要なコンテンツだという。口コミやハッシュタグが沢山付けられているページのほうがよりオーガニックさが強く、消費者にとってECサイト内だけでなくサイト外からも検索して自分が求めるものを探すうえで有用だ。
「リテールECサイトのメディア化が進めば、SEOも自然と高まり媒体価値が上昇するため、広告の出向先として一層魅力的になっていきます。ハッシュタグやレビューをうまく活用することで、リテールECサイトは“コマースSNS”へと発展を遂げられる可能性があります」と山崎氏は述べた。
リテールメディアの未来予想図
店舗との連携、いわゆるOMOも今後求められてくるテーマの一つだ。ECサイトだけでなくデジタルデバイスやアプリを活用することで、店舗のメディア化も重要性を増すという。「店舗に入るとストアアプリが立ち上がってナビゲーションしてくれたり、広告が出たり、おすすめの表示や購入決済の案内など、考えられる機能は沢山あります。リテールメディアとともに、このあたりのマーケットも盛り上がってくるかもしれません」と山崎氏。
セッションの総括として、サードパーティーCookie規制の有無に関わらずリテールECサイトは有望なユーザーとのタッチポイントとなる。そこに規制が起こったことで、その流れが加速した形だ。そのうえでレビューや双方向Q&A・ハッシュタグ機能といった様々な伸び代があり、それらが店舗と連動していく可能性も広がる。
実際、ZETAではハッシュタグ活用エンジン「ZETA HASHTAG」やレビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」を提供しており、グループ企業のデクワスからは検索連動型広告ソリューション「デクワス.LISTING」といったソリューションもあるという。
「このような発展が実現していけば、デジタルがありとあらゆるものをつなぐ新時代コマースが到来するかもしれません。そういった流れが、今まさにリテール業界に起こりつつあります」と山崎氏はセッションを締めくくった。
ZETAが提供するECマーケティング・リテールDXを支援するソリューション「ZETA CXシリーズ」の資料は、資料ダウンロードページよりダウンロードいただけます。