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MarkeZine Day 2025 Retail

データで紐解く、現代子育て世帯のインサイトとその変化

性別に対する固定観念も多様化。現代子育て世帯の意識の変化と、マーケ施策活用のヒント

エアコンや空気清浄機はパパが購入に影響力を持つ

 子育て用品・サービスに関しては、主に購入者としてパパとママが考えられます。様々な子育て用品・サービスにおいて、パパとママのどちらがその購買に影響を及ぼすのかを調査した結果が図表4です。

図表4 「購買に影響を与える人」と「購買までにかかる負担」の関係
出典:株式会社コズレ 子育てマーケティング研究所(2022年10月調査、分析対象:0歳および1歳の子を持つママかつ各商品購入者※各商品購入者数:葉酸サプリ964名、紙おむつ1,267名、乳児用ミルク1,060名、チャイルドシート932名、学資保険251名、エアコン203名、空気清浄機267名、ベビーカー697名、クリックして拡大)

 横軸(X軸)は、購買意思決定に「影響を及ぼす人」で、1(ママが単独で決めた)~5(パパが単独で決めた)の5段階による回答結果です。一方、縦軸(Y軸)はママが商品を理解し購入するまでに「必要とした負担」の程度を、1(とても小さい)~5(とても大きい)の5段階で得た回答結果です。そして、商品別に各々平均値を出してプロットしたものが図表4になります。

 特に興味深いのは次の3点です。第1に、「葉酸サプリ」「乳児用ミルク」「紙おむつ」は購買におけるママの負担が小さく、ママが単独で購買意思決定を下す傾向にあること。第2に、「学資保険」「チャイルドシート」「ベビーカー」は購買におけるママの負担がやや小さくなく、購買意思決定においてママとパパが対等に意見を出しあって決める傾向にあること。第3に、「エアコン」「空気清浄機」は購買におけるママの負担がやや小さくなく、購買意思決定においてパパの影響がママよりも大きくなっていること。

 この3点から、購入にパパの影響が一定程度あるプロダクトであれば、パパがその商品・サービスを好んでくれるようなマーケティング施策の重要度が高くなることがわかります。また2022年10月に施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度により、パパの育児参加が増加することが考えられます。今後より一層、子育て用品・サービス購入時におけるパパの影響は大きくなることでしょう。

 パパでも使用したいと思わせるマーケティングの好例として、THE NORTH FACEの「MATERNITY+」があります。

妊娠出産という女性の挑戦をサポートしてきたTHE NORTH FACEは、
子育てという冒険を進む人たちを、性別や役割にとらわれることなく、
さらに広く支えるために、
ユニセックスアイテムを中心にラインナップを拡充しました。
妊娠期間も、家族が増えた時間も、みんながヘルシーに過ごす。
ありのままの家族の姿で、さあ外へ出よう。
THE NORTH FACEのMATERNITYは、MATERNITY+へ。

(出典:THE NORTH FACE「MATERNITY+」公式サイト

 上記の通り「性別や役割にとらわれることなく」という記述がブランドメッセージとして強く響き、それゆえ「ユニセックスアイテムを中心にラインナップを拡充」したことに納得がいきます。

 消費者行動論で考えられてきた「態度が行動に影響を与える」観点から見ても、購入者のみならず、「購入に影響を与えるであろう人を考慮し、好きになってもらうこと」そして「行動してもらうもしくは購入者に影響を与えさせること」が重要です。

子育て用品・サービス市場を分析する際の3つの注意点

 「データで紐解く、現代子育て世帯のインサイトとその変化」をテーマに、3回にわたり寄稿させていただきました。最後に、子育て世帯向け事業においてデータを分析する際に注意すべきポイント3つを記し、まとめにしたいと思います。

1.特殊な市場であると理解する

2.分析すべきデータを選別する

3.ママ・パパはちゃんと見ていると認識する

 第1に、「特殊な市場である」と理解すること。子どもは成長し、いずれ市場から卒業します。そのため、マーケターにとって勝負は短期間となり、日・月・年齢別のターゲティングがカギとなります。また購入者と使用者は異なり、つねに使用者(子ども)の安全を担保しつつ、購入者の意識・価値観の変化を追い続けなくてはなりません。

 第2に、集まるデータから「分析すべきデータ」を選別すること。以前では考えられないほどの量のデータが、現代子育て世帯からも収集できるようになりました。同時に、それらを分析できる人たちも増えてきました。

 しかしマーケターにとって重要なのは、データの分析屋になること以上に、どのようなデータを収集すべきかの選別眼を持つことです。そして、分析したらいかなる結果が出て、最終的に打つべき施策はどのようなものかを想像できる能力の養成です。

 事象の「本質」を見極めようとするマーケターの存在意義は、より大きくなると思います。そのためには、社会学、心理学、統計学等に根差したマーケティングの理論、マーケティング・サイエンスの理論、消費者行動の理論学習も必要になるでしょう。

 第3に、「ママ・パパはちゃんと見ている」と認識すること。子育て用品・サービスの特徴は使用者が主に子どもである点ですが、購入者であるママ・パパは、自分が使用するものよりも購入過程に労力をかけるかもしれません。

 新型コロナの蔓延もあり、店頭での買い物時間の縮小から我々の直近調査でも「ついで買いの減少」や「購入検討商品数の減少」が結果として表れています。そのような状況下では、いかに自社の商品・サービスを事前に想起させるかがより重要になります。

 そのためにも、商品に込めた想いや隠れた企業努力などは、どんどんアピールすべきです。我が子のために努力するメーカーや小売店から商品を買いたいママ・パパは多いでしょう。ですから、その判断の一助となるコミュニケーション施策が重要です。それこそが、ブランド構築につながっていくのです。

 以上、1人でも多くのママ・パパが子育ての喜びをもっと大きく感じられるよう、本連載が皆様のお力になれば幸いです。

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この記事の著者

飯野 純彦(イイノ アツヒコ)

1980年群馬県生まれ。慶應義塾大学大学院修士、博士課程を経て、滋賀大学経済学部特任講師、秋田大学教育文化学部専任講師。2017年より友人らが起業した株式会社コズレに参画。現在、コズレ子育てマーケティング研究所所長としてベビー用品・関連サービス企業のみならず、子育て世代にアプローチしたい多くの企業のマーケティング・...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/01/06 08:00 https://markezine.jp/article/detail/40850

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