SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

D2C企業と探る、BX(ブランド体験)の可能性

資生堂がDXを通じて実現する「テーラーメイドなオンリーワン体験」とは

お客様がPBPに求めるのは「共感」と「後押し」

磯山:DXを進める中でも、「Beauty DNA Program」ではPBPの皆さんの伴走サポートとデジタルの併用を前提とするなど、「人」を大切にしているように見受けられます。

スギモト:DXを推進していくにあたっては、社員が財産です。社員一人ひとりがレジリエンス(回復力)とアダプタビリティ(適応性)を持つことを重要視しています。

 たとえば、PBPのありかたも変化しています。従来は店頭でお客様を受け入れる存在でしたが、今ではデジタルツールを活用し、WebカウンセリングやSNSでの情報発信など、オムニチャネルでお客様の共感を生み出す場を広げています。このように、店頭で応対・接客を行う国内ビューティーコンサルタントを、お客様一人ひとりに寄り添い「自分らしい美」を一緒に創り上げるパートナーの意味を込めてPBPに変更しました。

磯山:ブランドの公式発信だけではなく、デジタルに特化したPBPは、個人としても発信していらっしゃるのですね。

スギモト:既に5,000フォロワーを超えるPBPも誕生していて、高いエンゲージメント率を維持しています。情報発信だけではなく、市場の情報収集から資料作成、コンテンツ企画、実行、改善まで、自分でPDCAを行い、新しいケイパビリティを獲得できています。

磯山:高いエンゲージメント率の秘訣はなんなのでしょうか。

スギモト:PBPが自身のコンテキストで発信をしているので、共感を得やすいのだと思います。たとえば、これまでのアプローチでは接点がなかったお客様が、PBPが発信する情報を見て、「この人は私と同じアーティストが好きなんだ」「同じ趣味の人が勧めるアイライナーなら買ってみようかな」というように、これまでとは違う角度から共感し、当社の製品に触れていただける可能性が生まれています。

磯山:個人が自分の体験を発信するからこそ、顧客の体験と結びついて共感を得やすいのですね。

スギモト:お客様がPBPに接触する際、彼らが最も求めているのは「共感」と「後押し」です。押し付けられて、「これがパーソナライゼーションです」と言われたら嫌ですよね。

磯山:確かにそうですね。

スギモト:我々は選択肢を提示するだけで、選ぶのはお客様です。SNSでは商品や美容法を紹介しますし、「Beauty DNA Program」では分析情報もすべて提示しますが、押し付けはしません。選択肢を用意し、自分に合うものを「お客様に選んでいただく」というスタンス。これがパーソナライゼーションではないでしょうか。

あらゆる人をエンパワーメントする存在でありたい

磯山:ここまでお聞きしてきたようなDX推進を、スギモトさんはCDO(Chief Digital Officer)としてどのように進めてきたのですか?

スギモト:着任した当初は、DX推進に対して社内からネガティブなリアクションもありました。悔しい思いをしていた時に思い出したのが、ピーター・ドラッカーの「Culture eats strategies.」という言葉です。直訳すると「文化は戦略を食べてしまう」ですね。

 どんなに綿密にデジタル戦略を立てても、社内文化がともなわなければ呑み込まれてしまいます。そこで私は、150年の歴史とデジタル戦略との結びつきを整理し、社内コミュニケーションを密にすることから始めました。

磯山:DXと言っても、実行するのはやはり「人」ですね。

スギモト:社員一人ひとりのこれまでの体験を踏まえた上で、「デジタルはこういう風に使えるんだよ」と理解を得ていく過程が肝だったのだと、今では思います。

磯山:最後に、資生堂さんは顧客にとってどういう存在でありたいと思っていますか?

スギモト:資生堂の初代社長である福原信三は、「ものごとはすべてリッチでなければならない」という言葉を残しました。150年経った今も「人々の暮らしを豊かに美しくしよう」という理念は変わっていません。

 100年前の雑誌「資生堂グラフ」は、女性がゴルフやスキーをする姿を表紙にして女性をエンパワーメントしました。当時としては画期的なことです。現代ではダイバーシティ―&インクルージョンの考えのもと、男性パーソナルビューティーパートナーが自らメイクアップをして新しい美容習慣を提案するなど、対象を広げています。

 あらゆる人たちが内なる自信を高められるように、エンパワーメントする存在でありたいと思っています。

磯山:基本理念はそのままに、時代に合わせて常にアップデートしていくということですね。

スギモト:現在実施しているデジタル活動の原型は約100年前に存在しました。PBPからの情報発信の方法は変わっても、お客様一人ひとりに寄り添うパートナーであることに変わりはありません。

 私たちは常に、時代に合わせた新しい手法と価値の創造を目指しています。現在はデータやデジタルを活用してお客様自身も気づいていないインサイトを捉え、テーラーメイドなオンリーワン体験を生涯にわたって楽しめる環境を創り上げることが第一ですね。

編集後記

 今回は、日本を代表するブランドである資生堂ジャパンCDO・資生堂インタラクティブビューティーDX本部長のスギモト様にお話を伺うことができました。

 新規獲得から長期愛用者へマーケティングをシフトする動き、顧客に寄り添う様々な取り組みを行うことで一気通貫のブランド体験を実現されていました。技術が進歩する中でも100年前から一貫して顧客に寄り添う施策を継続して実行してきたからこそ、現在の日本を代表するブランドになり、お客様に愛用される商品を提供されているのだと感じました。現状に満足することなく新たな技術を取り入れ、常に挑戦している資生堂様の今後の取り組みがとても楽しみです。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
D2C企業と探る、BX(ブランド体験)の可能性連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

磯山 博文(イソヤマ ヒロブミ)

株式会社wevnal 代表取締役

 2008年大手インターネット企業に新卒で入社し、メディアレップ事業、新規事業開発に携わる。2011年4月に株式会社 wevnal を創業し、LTV最大化を実現するBXプラットフォーム「BOTCHAN」を展開。累計導入社数は600社を超える。

 12期目を迎えた20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2023/01/10 09:00 https://markezine.jp/article/detail/40941

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング