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課題は可処分時間と広告売上のアンバランス Molocoが日本市場で目指す“機械学習技術の民主化”とは

 2019年に日本市場に参入した機械学習テクノロジー企業のMoloco。Googleなどの巨大企業で機械学習(Machine Learning)の開発に携わっていたエンジニアらにより設立され、モバイル広告DSP事業などを展開してきた。そのため同社をモバイル広告事業者と見る向きがあるが、現在目指しているのはそのDSP事業を通じて積み上げてきた技術開発力と人材を背景に、高度な機械学習のテクノロジーを幅広い企業に提供する「機械学習技術の民主化」だという。その背景には、「GoogleやAmazonが一人勝ちをしているというアンバランスさを解消したい」という思いがある。そんな広告市場の現場とMolocoの戦略について、Moloco 日本事業を統括する坂本達夫氏が語った。

モバイル広告業界の経験から「機械学習」の活用を日本で開拓

MarkeZine(以下、MZ):坂本さんは現在Molocoの日本事業を統括なさっていますが、これまでアプリ広告業界ではどのような経験を積まれてきたのでしょうか。

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Moloco 日本事業統括 坂本達夫氏

坂本:キャリアのスタートは楽天でした。次のGoogleでアプリ広告事業のAdMobを担当したのが広告との初めての関わりで、その後アプリ動画広告企業のAppLovin、SNS広告の運用ソリューションを提供するSmartly.ioに入社しました。AppLovinとSmartly.ioに関しては日本市場への参入フェーズから立ち上げに携わっていました。Molocoに入社したのが2021年9月です。

 現在は機械学習のテクノロジー企業であるMoloco日本事業でビジネス面における責任者として、主にDSP事業の売上責任を負っています。新しいお客様とのビジネス開発をはじめ、既存のお客様や広告代理店様の事業成長をさらに促進するグロース(Growth)部門の統括をする立場です。

広告業界に起きている“アンバランス”とは

MZ:坂本さんは長年アプリ広告領域に携わっていらっしゃいますが、現在この市場ではどのような変化が起きているのか教えてください。

坂本:マクロレベルでいくつかの大きな変化が起きていると感じています。

 まず一つがプライバシー規制です。CookieやIDFAのようなIDに依存した広告ソリューションを提供してきた企業にとっては逆風になりますが、これまでのようにユーザーデータを自由に使ったビジネスがしづらくなってきました。

 もう一つがユーザーの可処分時間のシェアと、それに対する広告業界売上のアンバランスです。どういうことかというと、ユーザーがスマホを利用している可処分時間の過半はGoogleやFacebook以外のアプリやサイトに費やされるのに、広告の売上構造の大半はGAFAのようないわゆる『ビッグテック』に集中しています

 このアンバランスはかなり前から潜在的にありました。広告主にとっても媒体にとっても大きな機会損失となっている状態なのですが、なかなか解消できずにきました。なぜかといえば、ビッグテック企業は莫大な資本力を武器に、機械学習やAIに大きな金額を投資して、“彼らのプラットフォームの上で”非常に高い広告パフォーマンスを出せるようにしてきたからです。

 私自身、モバイル広告市場をずっと見てきたのですが、2015年前後は多数あったモバイル広告企業がここ数年で再編され、Google/Facebookと「それ以外」というように二極化していると感じています。

 それだけ彼らが強くなり過ぎたのと同時に、業界としても十分にテクノロジーに投資してこなかったという側面もあるのではないでしょうか。ビッグテック以外の広告企業の多くが「IDFAでターゲティングできればいいじゃないか」「ゲーム媒体にゲームアプリの広告を流せば手っ取り早くパフォーマンスは出る」といったことに甘んじてきた結果、『パフォーマンスの良いところに寄せる』広告主の予算の多くが、巨大プラットフォームに偏ってしまいました。

MZ:実際に広告主の方も可処分時間と広告売上のアンバランスについて認識しているのでしょうか。

坂本:はい、広告主の中にはそのアンバランスに疑問を持っている企業もあり、実際に「ビッグテック以外の良い出稿先媒体を探している」という声はあちこちで聞かれます。そうした潜在ニーズを満たすソリューションがMolocoです。

 当社はこの状況に対し「機械学習の技術はより民主化され、誰にでも使えるようになるべき」と考えています。では、学習データに何を使うのかといえば、これまでのように自由にサードパーティーデータは使えませんから、やはりファーストパーティーデータを活用することが必要になります。

 ですが現状は、広告主も媒体もなかなかファーストパーティーデータをビジネス成長に有効に繋げられていません。Molocoは機械学習技術を提供することで、あらゆる企業がファーストパーティーデータを活用し、大手プラットフォームがユーザーとデータを抱え込んでいる“Walled Garden”の外にあるオープンインターネット上でも、高いパフォーマンスを出せるようにしていこうと取り組んでいます。

図1
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「機械学習技術の民主化」を現実にする三つの事業

MZ:Molocoはどのような事業を展開しているのでしょうか。

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坂本:Molocoをアドテク企業と捉えている方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちは自社のことを「機械学習企業」と呼んでいます。Molocoという社名も実は「Machine Learning Company」のM・L・Cを取ったものです。そしてこのMachine Learning(ML)のテクノロジーを、クライアント企業の事業成長のために様々な形で提供しています。

 事業内容は大きく分けると三つです。一つ目はモバイル広告のDSP事業です。これはMolocoが長年展開してきた事業で、ゲーム・非ゲーム問わず、高度なML技術によりアプリ広告のパフォーマンスを短期間で高めることができるのが特長です。広告主や代理店にとっては、GoogleやFacebookに広告を出稿するのと同じ感覚で「Molocoに広告を出稿する」という形で利用いただいています。現在当社の大半の売上はこのDSP事業によるものです。

 次にリテールメディア・プラットフォーム事業。これも機械学習技術を活用し、マーケットプレイス事業者が広告ビジネスを立ち上げる際に必要な機械学習エンジンやキャンペーン管理機能などを提供するものです。たとえばEコマースプラットフォーム企業が、大きな技術投資をしなくても「Amazon広告みたいなサービスを立ち上げる」ことを可能にするソリューションです。

 そして最後が『Moloco Monetization』という、アプリのマネタイズ(収益化)に関する事業です。これは自社のデータを活用し、オリジナルの広告プロダクト構築を可能にするサービスになります。たとえば日本発のカレンダーシェアアプリ『TimeTree』は、『TimeTree Ads』という独自の広告メニューを開発しているのですが、そのエンジンを提供しているのがMolocoです。

ユーザーIDに依存せずに高パフォーマンスを実現するMolocoのDSP

MZ:コアとなるDSP事業はどのような特長があるのか教えてください。

坂本:DSPは昔から多数ありますが、広告IDが取れなくなっている現在、大量のトラフィックデータがある中で、広告案件それぞれについて裏で動いている機械学習の『精度』と『速度』の2つが差別化要素になっています。「重要なシグナルの選別」「シグナルの値で重み付け」「価値が高いトラフィックの買い付け」という一連の流れを行う際の精度、「その学習を回転させられる」速度です。私たちの機械学習はディープニューラルネットワーク(DNN)という学習法を活用し、これらの課題に取り組んでいます。

 細かい内容ですが、極力わかりやすく説明してみますね。まず、媒体側から送られてくる広告の『リクエスト』には、100前後の様々な“シグナル”が含まれています。OSのバージョンや端末のタイプ、IPアドレスなど、プライバシーに関係のない機械的な(コンテクスチュアルな)シグナルが多数あるなか、アプリごとに『良いユーザーに共通する特徴点』を抽出していきます。

 どのシグナルが良いのか・悪いのかは、広告主のサービスによって変わります。そのため、ファーストパーティーデータは、それぞれの広告主にとってどのシグナルがどれくらい重要かを学習するために必要なデータソースとして類推に使います。

 こうしてどのシグナルにどれくらいの価値があるかを計算し、毎秒数百万にのぼる次に来た広告リクエストのシグナルを迅速に解析して、それぞれのトラフィックにどれぐらいの価値があるのかを極力正確に推定します。これが私たちが提供している裏側の仕組みで、膨大なデータを圧倒的なスピードで分析するわけです。

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Molocoの機械学習の仕組みの概要。アプリそれぞれのファーストパーティーデータ、コンテクスチュアルデータ、広告キャンペーンのデータを大量に取り込み、高い技術力とインフラに裏打ちされたDeep Neural Networksによる深層学習で最適化をかけることで、高い広告効果を実現させる
(クリックすると拡大します)

MZ:IDに頼らずRTBに含まれるシグナルを分析して重み付けを行うことと、さらにファーストパーティーデータを活用することでより信頼性が担保されるわけですね。

坂本:そうです。そのため広告主の皆様には、なるべく多くのデータをMolocoに提供していただくようにお願いしています。Molocoはほとんどの広告主の方が導入されている計測ツールと公式に連携しているため、プライバシーに関する情報を送受信することなく最適化しています。

 ほかのDSPだと最適化できるまで4~8週間ほどかかるような深いレイヤーのキャンペーン目標でも、Molocoなら2~3週間くらいで最適化できます。なんでしたら広告配信前からデータを送っていただければ事前に学習しておけるので、パフォーマンスが上がるまでの期間を大幅に短縮できます。もちろん実際の広告配信後には、より多くのデータが得られるようになるため、調整を行って改善をし続けます。

  また、広告効果が高いだけでなく配信ボリュームも確保できます。広告効果を高めるために、自社にとって価値の高いユーザー以外を切り捨てるような媒体もありますが、それだとボリュームが下がってしまい、事業を成長させたいという広告主のニーズに最大限には応えられません。Molocoでは、価値が相対的に低いトラフィックに対しても低い金額で入札し、ROIがプラスになるよう最適化を行うことで、ボリュームと効率性を維持しながら広告主のKPI達成を支援しています。

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Google広告やFacebook広告と肩を並べる“もう一つの選択肢”

MZ:Moloco広告はGoogle広告やFacebook広告に比べてもパフォーマンスは高いのでしょうか。

坂本:私たちは「どの広告よりもパフォーマンスが出る」という競争観点ではなく、これまでGoogle/Facebookしか選択肢がなかったところにMolocoをプラスすることで、その分しっかりトップラインを伸ばせる、成長をさらに加速できる、という点を重要視しています。実際にクライアント企業のなかには、Molocoで大きな成果を上げ、全体の広告費のなかで数十%を私たちに割いている企業が複数出てきています

 たとえば、M2E(Move to Earn)アプリの「トリマ」を提供するジオテクノロジーズ様では、ビッグテック系を含めて複数の媒体に広告を展開しているのですが、獲得ユーザーの40%がMoloco広告経由だそうです。

MZ:かなりの成功事例ですね。日本市場での成長率はいかがでしょう?

坂本:2019年に日本市場に参入してから3年連続で前年プラス100%以上の伸びを達成しています。広告のパフォーマンスが高いことや、アドフラウド(不正広告)が少ないクリーンなネットワークだということが徐々に業界内で認識されてきているのを感じています。最初の1年~1年半の種まき期間を経て、成長フェーズに入り、アクセルを踏み始めたという段階です。

 アドフラウドは現在でもモバイル広告業界の大きな問題です。たとえば、ユーザーが広告をクリックしていないのに『クリックされた』とするデータをトラッキングツールに飛ばすなどして、オーガニックや他媒体の成果を奪うといった悪質なDSPもあります。彼らは結果数値だけを見るとあたかもパフォーマンスが高いように見えるため、どの数字をどう見れば本当の「広告の貢献度合い」がわかるのか悩んでいる、または知らずに損害を被っている企業様も実は多い。Molocoに関しては、やはり正直にビジネスをすることで積み上げてきた信頼性が、最近の伸びの要因の一つではないかと考えています。アプリのマーケティングに関わる方が正しい意思決定をできるようにするサポートは今後も強化したいです。

図3
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アプリ広告企業では非ゲーム系が全体の半数近くまで増加

MZ:クライアント企業の傾向はいかがでしょうか。やはりゲーム企業が多いのでしょうか。

坂本:ゲーム系のクライアント様の割合は高いですね。これは日本に限らず、ゲーム企業は1社当たりの売上が大きくなる傾向があり、その理由としてグローバルに広告展開する企業が莫大な投資を行うことがあります。ただ、数でいえば非ゲーム系の広告主も半数近くまで増えました。

MZ:どのようなカテゴリーの企業が多いのでしょうか。

坂本:様々なのですが、たとえばEコマースのC分野ではかなりの大手企業が最近ではMolocoを使い始め、高い成果を上げていただいていますし、マッチングアプリ、ウェブトゥーンなどのコミック系なども多いですね。エン・ジャパン様、AppBrew様など、全般的に、よくCMで見かけるような有名アプリや、メジャーなカテゴリーの1社以上にはお使いいただいており、金額的にも1アプリごとに数百万円〜数千万円台まで予算を割いていただいています。

 先ほどもお話ししたように、全広告予算の10〜20%をMolocoに投資するという企業様は増えています。モバイル広告市場の現状を考えると、Google/Facebook以外の一つの媒体が10%以上の予算を握っているというのはかなりインパクトがあると思います。

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データを活用した正しいマーケティングの実現に向け啓蒙活動も

MZ:最後に、今後の業界内での展開について教えてください。

坂本:まず、既存の主要ビジネスであるDSPの事業についてはプロダクト面、サービス面の両方を強化していきます。プロダクトに関しては、さらに投資を続け、継続的にパフォーマンスを向上し続けられると思います。

 またプロダクトの啓蒙活動はもちろん、どの指標をどのように見れば良いのか、デジタルやアプリマーケの考え方とは、といったより幅広いナレッジを展開することで、マーケターの方の知識・理解を高め、競争力を高められるような支援を行っていきたいと考えています。

 DSP以外の『リテールメディア・プラットフォーム』や『Moloco Monetization』に関しては、日本市場では種まきフェーズです。国内でも潜在ニーズは大きいと捉えており、現在はファーストユーザーになるクライアントの方を探している最中です。今後2~3年の間に大きくして、新たな価値を提供できるようにしたいと考えています。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/03/22 11:00 https://markezine.jp/article/detail/41608