AIのカオスマップを読み解く
伊佐:本日のテーマは「AIが未来のビジネスにもたらす革命的な変化」です。AIの発展は実に目覚ましく、人々の関心も急激に高まっています。私自身も様々なツールを試しているところですが、AIを取り巻く最新のトレンドを改めて整理していただけますか?
ボドナー:まず、AIによる検索エンジンの進化が挙げられます。Google の対話型 AI「Google Bard」や、ChatGPTを搭載した新しい「Bing」などです。この進化は、情報を検索して見つける方法が大きく変わりつつあることを意味します。
AIを活用して画像を生成するツール「Midjourney」には驚かされました。このツールは非常に強力で、コミュニケーションの方法に画期的な変化をもたらすと思います。AIによる動画生成技術も驚異的に進化するでしょう。制作スピードとクオリティが従来よりも遥かに向上しています。
「Rewind」というAIアプリにも注目です。同アプリをコンピューターにインストールすると、コンピューター上のユーザー行動をすべて記憶できるようになります。要は、コンピューターが脳の役割を果たすわけです。使い方は簡単で「伊佐さんに先週送ったメールの内容は?」「この統計情報を見た場所は?」などとアプリに質問するだけ。それだけでアプリが元のソースドキュメントを見つけてくれます。
活用を成功させる鍵は「好奇心」にあり
伊佐:HubSpotが約700名のビジネスパーソンを対象に実施した調査では、回答者の91%が「AIをはじめとする新たなテクノロジーについて情報を収集し、それらを活用してマーケティングの効果を高める必要がある」と答えています。しかしながら62%は「AIなどの新しいテクノロジーに対してマーケティングプランが追いつかない」とも感じているようです。また「AIなど最新テクノロジーの活用に不安がある」と回答した人は55%に及んでいます。つまり、AIへの関心は高いものの、活用となると不安を感じ、効果を確信できずにいるのです。
ボドナー:どのような点に不安を感じているのでしょうか?
伊佐:現在はユースケースが十分にないため、不確実性が人々を不安にさせているのでしょう。
ボドナー:ユースケースは既に存在しています。ポイントは、自社の顧客にとって価値が大きいユースケースを選ぶことです。たとえば、自社のWebサイト上のチャットにAIを導入し、チャット機能の強化とボットの訓練を行うとしましょう。これまではサポート担当者の回答を待たなければならなかった顧客が、ボットを通じて有意義な回答を即座に得られるようになります。
メールの文章をAIに作成させる取り組みも効果的です。送信先の個人や企業について、既にわかっているあらゆる情報をフルに活用しながら標準レベルより細かくパーソナライズしたメールを作成できます。
また、画像作成にAIを活用するのも良いでしょう。デザイナーを採用したり個別に写真を撮影したりするよりも、時間を大幅に節約できます。AIが生成した画像をメールやWebサイトで使用するなど、簡単に着手できるところからスタートし、ノウハウを蓄積することをお勧めします。
伊佐:ほかに不安を解消する方法はありますか?
ボドナー:ご自身が興味のある分野で導入してみることは非常に大切です。好奇心と興味は私たちが生きていく上で大きな原動力となります。関心のあるマーケティングやテクノロジーの分野を選択し、その分野にAIを導入すれば、成功の可能性は当然高くなるでしょう。「やらなければならない気がするから」という消極的な理由でトライすることはお勧めしません。
誤解されがちなAI活用のメリット
伊佐:ボドナーさんは最近ブログ記事でもAIについて発信されていましたね。このブログ記事で伝えていた内容を改めて紹介いただけますか?
ボドナー:このブログ記事ではAIに対する誤解を取り上げました。多くの人はAIを「少ない時間で多くを成し遂げるための手段」だと誤解しているのです。それは確かに事実ですが、AIの本質的なメリットではないと私は考えています。単なる効率化やコスト削減、時間の節約にとどまらず、施策の効果向上やビジネスの成長をもたらすのがAIです。その点がまだ十分に理解されていないと感じます。
伊佐:なぜAIが施策の効果を向上したり、ビジネスの成長をもたらしたりするのでしょうか?
ボドナー:顧客についてわかっていることをすべて活用してAIモデルをトレーニングし、顧客の背景情報を十分に把握した上でコミュニケーションができるようになるからです。
伊佐:体験をそれぞれの顧客に合わせてカスタマイズし、最適化できるというわけですね。結果として施策の効果が高まると同時に、効率もアップします。AIを活用することで、顧客にさらに寄り添えるようになると。
ボドナー:そのとおりです。
調達プロセスにAIを導入した米ウォルマート
伊佐:汎用的な予測分析ツールに搭載されているAIもまた、データ分析を自動化し、適切な意思決定を支援してくれそうです。
ボドナー:もちろんです。AIには情報へのアクセシビリティーを高める効果があります。AIを搭載した予測分析ツールを使えば、顧客の業績や経営状態の分析情報が入手しやすくなるでしょう。データアナリストを採用して図表やグラフを作成してもらわなくても、AIツールに質問するだけで済むかもしれません。
しかしそれは、優秀なデータチームが不要だということではありません。必要なデータがすべて分析の型に適切に取り込まれているか、分析が適切に行われているかを確認する人員は依然として必要です。とは言え、社内の誰もが必要なデータにアクセスできるようになるため、データの可用性が大きく変わることは間違いないでしょう。
伊佐:AIがビジネスに与える影響として、ほかにどのようなことが考えられますか?
ボドナー:物品の購入方法への影響です。たとえば、世界最大規模のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」では、既に調達プロセスにAIを導入してコスト削減を図り、取引先との交渉を合理化しています。
また、投資の内容を検討する際にもAIは有用です。AIはROI(投資収益率)を計算するだけでなく、ROIモデルに基づいて「ビジネス開発担当者を3名と営業担当者を2名採用するよりも、営業担当者を6名採用することで成果を最大化できるでしょう」といったアドバイスを提供してくれます。企業で常に行われている戦略的な意思決定のプロセスにおいても、AIによるアドバイスが活用されるようになるでしょう。
「仕事が奪われる」は真実か?
伊佐:「AIに仕事を奪われるのではないか」と不安に思っている人もいるようですが、この点についてボドナーさんはどう考えますか?
ボドナー:AIは感情をともなわない意思決定を得意としますが、逆に人間は感情への配慮や意思疎通ができます。それが人間の提供するコアバリューの一つです。
過去にも大きな技術革新が起こるたび、職業人口や人間の働き方は変化してきました。今は100年前と比べて農業に従事する人の数が大幅に減っています。オートメーションや機器の発達により、農業の生産性が高まったからです。現代社会でも同じことが起こります。AIによって消えゆく仕事もあれば、新たに生まれる仕事もある。AI導入はトータルで見ればメリットのほうが大きいと思いますが、人間の働き方や仕事に必要な人員の数は、向こう数年間で変化するでしょう。
伊佐:AIを活用する人とそうでない人の間の格差はますます広がっていきそうです。
ボドナー:今後ビジネスで成功を手にするのは、AIテクノロジーやツールを駆使して仕事の質を高められる人だと思います。
伊佐:同感です。HubSpotが日本の営業部門のマネージャーや担当者を対象に毎年実施している調査では「勤務時間の約22%が無駄なことに費やされている」という結果が出ています。無駄なこととして「社内のミーティング」や「報告業務」などが挙がりました。社内ミーティングが時間の無駄だと思われている理由は、単なるデータの確認に多くの時間を費やし、ディスカッションや情報共有をほとんど行っていないからでしょう。データの確認や報告業務をAIに委ねれば、ミーティングを有意義なディスカッションで充実させられるはずです。
活用すべき業務を見極められるリーダーに
伊佐:企業がAIを導入するにあたって、直面し得る課題を教えてください。
ボドナー:AIは新しさゆえに十分なノウハウがまだ蓄積されていません。日を追うごとに利用のハードルは下がっていくものの、ノウハウ不足により様々な課題が生まれるでしょう。
その一つが、AIの得手不得手を含む機能理解が進んでいないことです。AIは大まかな解の提示を得意としていますが、完璧で正確な解を出すことは苦手です。たとえば「HubSpotのCRMでカスタムオブジェクトを作成するには?」という質問に完璧な解は必要ありませんから、AIは一連の作成手順を示します。その手順に沿って作成を進めている最中に行き詰まった際は、再度AIに質問を投げかけ、うまくいくまで繰り返せば良いのです。
一方、正確な統計情報が必要な場合や、厳密な手順に従ってプロセスを進める必要がある場合、AIに頼るのは得策ではありません。このように、AIを活用すべき業務の見極めが企業リーダーには求められているのです。
伊佐:AIは賢く活用すれば間違いなく有益ですが、利用方法を誤らないよう注意が必要なのですね。最後に日本のビジネスパーソンへアドバイスをお願いします。
ボドナー:AIは次世代のインターネットであり、Web 3.0の基盤となるテクノロジーでもあります。新しい知識を吸収する際は、信頼の置けるリソースを見つけて根気よく学び続けてください。AIの可能性に対する理解を深めながら、活用目的を絞り込み、実際のビジネス環境でテストしてみましょう。そうすることで実践的なノウハウが身に付き、ビジネスの成長を促進できるはずです。
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