本番撮影の体制とそれぞれのメンバーがするべきこと
いよいよ本番撮影が始まります。ここでは、撮影現場を上手く回すために、どのようなチーム体制で臨めば良いのかを紹介します。私は普段、次のような役割分担で撮影を行うことが多いです。
1.絵をつくりこむ/撮る/撮れ高を判断する担当
絵をつくり、撮影して写真のクオリティを判断する役割を担います。具体的には本連載第2回で紹介した「撮影ラフ」やデザイン案と照らし合わせながら、空間のセッティングをしたり、光の具合を調整したり、人物の配置や表情、ポーズなどの指示をしたり、撮れたカットの良し悪しを判断していきます。クライアントとアートディレクター、フォトグラファーとで担当することが多いです。
2.前後のカットの準備/片付けの担当
撮影中のカットと並行して次のカットの準備をしたり、撮り終わったカットの片付けなどを行ったりする役割です。ひとつのカットが終わってから次のカットのための机を動かしたりすると時間のロスが大きいため、並行して準備を進めます。また、撮影が終わったセットはその都度片付けをしておくことで撤収もスムーズに進むでしょう。デザイナーやそのほかのスタッフで担当することが多いです。
3.全体を把握/進行を管理する担当
パラレルで動く全撮影メンバーの動きを把握し、全体の進行を管理する役割を担います。タイムキープを行い、撮り漏れがないかを確認したり、何か問題が起きたらその場で撮影スケジュールを組み立て直したり、またモデルがいる場合は出番を待つモデルのケアや、事前に手配していたお弁当の受け取り・配布なども行います。とくに大規模な撮影の場合には、撮影コーディネーターというポジションを専任で立てることが多いです。
これ以外の役割として、場合によってはモデル担当のファッションスタイリストやヘアメイク、美術や小道具など、空間をつくり込むプロップスタイリストと呼ばれる人などが加わります。
当日は慌ただしく状況が変わっていくため、当日その場で細かく指示を出していては間に合いません。チーム内の事前打ち合わせで、各自の役割を確認しながらシミュレーションをしておくと良いでしょう。連載第2回で紹介した「香盤表」を見ながら、当日は各メンバーが動きます。
繰り返しになりますが、大切なのは、1人ひとりが自分の守備範囲を把握し、それぞれが自分の担当範囲については自分で判断して動ける状態にしておくことです。
OKカットを判断するフローとその責任範囲
本番撮影中は、1カットごとにOKかどうかの判断をする必要があります。撮影当日の動きでとくに不安に思うのが、この「撮った写真の良し悪しをどのように判断すれば良いのか」ではないでしょうか。私も撮影経験が少ないころは、自分が決めないと次に進めないのに判断に自信が持てなかったがゆえになかなかOKを出せず、撮影を長引かせてしまうことが多々ありました。
ですが経験を積んでわかったのは、写真の良し悪しの判断はひとりでするものではない、ということです。
クライアントとフォトグラファー、アートディレクターは、それぞれのプロフェッショナル領域が異なります。だからこそ、この三者がそれぞれの観点からカットの意図や表現したいことを考え、互いに意見し合い、“チームで”結論を導くのです。
具体的に判断する際のポイントは、「目的に適っているか」。クライアントは撮影対象となる製品やサービスについてのプロなので、「伝えたいこと」の発信者として「その製品やサービスの魅力がしっかり伝わるか」という観点で判断します。
フォトグラファーであれば写真のプロなので、一枚の写真として魅力的かどうかを技術面からジャッジします。クオリティ判断を担う立場のアートディレクターやデザイナーは、コンテンツやクリエイティブを通して「伝えること」のプロ。撮影の目的に適った、適切なコミュニケーションのための一枚になっているかという観点で判断します。
このように、「お互いがどの領域のプロであるかを把握し信頼すること」「自分の責任範囲はもちろん、ほかの人に任せる部分も理解すること」が、スムーズな進行と写真のクオリティにつながるのです。