今回、CriteoとMediaMathの2件が同時期に表出したのは偶然ではない。広告ターゲティングを取り巻くビジネスや、個人データが内包していたコストが顕在化してきた表れである。
CriteoはCNILからの制裁を受けて、「今後インターネット・ディスプレイ広告の在庫に対して十分に競争力のあるCPMを継続的に支払えるかどうかわかりません」という旨を、事業リスクとして米国国税庁(IRS)に提示している。加えて、「CNILの指針に従えば(GDPR基準では)仕入れ企業(下記のSSP企業)の売上(取引)が減る可能性がある」と具体的な記載もある。
上記のうちマーカーを引いた企業は、破産したMediaMathの債務者リストにも登場する。ずいぶんと重なっている様子が、「氷山が動き出した」とイントロした背景だ。
- DoubleClick Ad Exchange(現Google)
- Yahoo!のRight Media
- FacebookのExchange
- MicrosoftのAd Exchange
- AppnexusInc.(現Microsoft)
- AdmeldInc.(現Google)
- The Rubicon Project,Inc.(現Magnite)
- PubMatic,Inc
「データ、のぞき見禁止」は待ったなし
この動いた氷山が及ぼす影響は、同業他社にも広がる。たとえば、民間の監視団体「Privacy International」が保護当局に苦情を申請しているだけでも「Acxiom」「Criteo」「Equifax」「Experian」「Oracle」「Quantcast」「Tapad」などのアドテクとデータベンダーの大手企業が並ぶ。
このような訴状は、自社の姿勢が正しいのであれば第三者の騒ぎに過ぎず、何も恐れることはない。矛先を向けられようとも「濡れ衣」として真摯に会話する手続きを取るのみ。課題は、その「真摯に会話する」体制の準備(覚悟)をした上で、現在のデータビジネスを行うことだ。
準備というのは、早い話、「システム費」「法務費」が必要になる部分。訴訟が発生してからの受け身対応だけでなく、プロアクティブに「ロビー活動」や「広報」が必要なのも当然として、さらにシステム的にオンライン上でのUX対応を行うことが大前提となる。
元々これらのコストや覚悟が、デジタル広告やターゲティングにおけるビジネスモデルの中には含まれていなかった。2018年のGDPR施行以降、「データののぞき見」の反省代として、これらのコスト高騰がCPM=100〜1,000円+αという薄利なビジネスモデルの上に上乗せされている。このところ「破産申請」のケースが目につくのは、「制裁金」だけにとどまらない負債の累積があふれ出してきたためだ。
訴えの矛先はGoogleやMetaなどの大手だけではない。「数撃てば当たる」の流れ弾が自社に飛んでくるイメージすらある。「ポストCookie対策」という表現は、「穴を探して逃げまどう」の代名詞かもしれない。回避法を探すことよりも、自社データへの姿勢を正すことから考えたい。