※本記事は、2025年4月刊行の『MarkeZine』(雑誌)112号に掲載したものです
米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』
─ 2030年、米国広告業界「次の12年」予測
─ マーケティングの雄、P&Gへのファンドの提言
─ 日本の流通企業の衰退のはじまり
─ ライブコマースの本流と本質
─ CM枠を減らす、米テレビ局の覚悟
─ プライベートDMPからCDPへ
─ GDPR起点の近未来、データは共有資源へ
─ 「ジェネレーションα(アルファ)」の輪郭
─ 西友を売却しD2C企業と手を組む、ウォルマートの意図
─ グローバル広告ホールディングスへの提言
─ オプトインの輪を拡大する、「Amazon Go」の真意
─ 巨大テック企業のM&A動向、エージェンシー・ランキングへの影響は?
─ NIKEとAmazon リアルとオンラインの顧客に対する哲学の差
─ サブスクリプション・ビジネスの新形態
─ 「5G」のデータ戦略 米VerizonとAT&Tが示すヒント
─ アンチ・アマゾン効果の追い風か 世界一に返り咲いたMicrosoft
─ サブスクから生まれる顧客接点の入り口 バーガーキングの次の一手
─ 米国で勢いづくDNVBが示唆する日本のD2C事業へのヒント
─ 「テレビ」という言葉が作る機会損失
─ Facebook「リブラ」が見据える「データの価値の再構築」
─ 巨大コンサル企業のシフトチェンジ エージェンシー業界進出の小休止
─ 情報銀行はGAFAに対抗できるのか 「わたし」のデータの預け先
─ 「リアル店舗」ビジネス衰退の原因はAmazonにあらず
─ 「データの利活用」という言葉を無意識で使うリスク
─ CCPAは対岸の火事ではない 「データを扱う理想の姿」へ向けて
─ 米国の先を行く、移動スーパー「とくし丸」の万能方程式
─ インターネット広告費の「伸び率」が示す未来
─ WalmartのD2C(DNVB)売却の裏側
─ COVID-19の向こう側、次の3年
─ Netflixは勝ち組なのか 未来のコスト上昇と新たな勝機
─ 特需後のテレビ業界 テレビCM買い付け経路のOTTシフト
─ 表面的な「ダークストア」 失敗の本質と勝ち筋
─ 個人情報保護法を超える民意の「CPRA」起案の背景
─ Amazon流、マーケティングの新概念とその技法
─ 「ターゲティング広告」に躊躇し始めた米テレビビジネス
─ Alibabaのフィンテック「Ant Group」が示す中国デジタル通貨が世界をリードする足音
─ 巣ごもり特需の「フードデリバリー」が抱えるジレンマ
─ ゼロパーティ・データの定義再考 DSR視点からデータ活用の負債コストを見極める
─ WalmartとAmazonの示唆 米国のD2C(DNVB)は第三フェーズへ
─ ポストCookieの真意は、ターゲティング広告のGoogle/Facebook依存からの脱却
─ ニューヨーク・タイムズが12倍に成長 オンライン投資先とその姿勢
─ D2C事業の真価は「無形資産」の構築
─ 「Amazonネイティブブランド」が変えるマーケティングと収益の概念
─ NetflixのEC事業「Netflix.shop」、真の狙いは目先の売上にあらず
─ 日経電子版から考える 新聞社は配信事業から「双方向会話型」の新事業体へ
─ 日本での準備が急がれる 米テレビ広告市場のトレンド
─ 良い会社の「免罪符」ではない「Bコーポレーション」が打ち出す、ベネフィットの概念
─ D2Cの「本質」と「裏」を読み解く、3つの視点
─ 「Cookie同意ポップアップ」に見える企業姿勢
─ デリバリー業界の自転車操業は、新しい業態への予兆
─ Microsoftの「新ウォールド・ガーデン」7.6兆円のゲーム企業買収にある思惑
─ 「データ越境移転」の制限 Facebook/Instagram欧州撤退の可能性
─ マーチン・ソレル氏のS4 Capitalが開拓していく、デジタルコンテンツの先行市場
─ 水と油のごとく二分する「重い側/軽い側」のデータの価値
─ Twitterの脱・広告へ イーロン・マスク氏が唱えるビジネス側の理由
─ Nielsen視聴率騒動とNetflix/Disneyの広告枠参入
─ 米国の広告出稿ランキング常連に変化、ダントツ1位の広告主は
─ 「テレビのD2C化」は第二章へDisney+/Netflix参入で広がる、CTV広告の出し先
─ Googleが撤退した分野こそ、ビジネスチャンス
─ マクドナルド/スターバックスを凌ぐファストフードチェーン「Chick-fil-A」のブランド資産
─ 米国D2Cユニコーンは、「反動」を乗り越えて
─ 「変化」ではなく「変数」を捉える。次の5年へ向けて『広告ビジネス2028』
─ データに価値をもたらし、事業を発展させる「保険事業」という機能
─ 米国リテールのパーパス経営 Targetが見せるPB展開
─ OpenAI/ChatGPTをBtoB視点で考える Microsoftの事業戦略
─ eスポーツという名の「新・金融」カテゴリー
─ リセール市場の成長を牽引 RaaSがつくる循環型経済
─ GAFAMと広告エージェンシーの企業価値
─ Criteoに制裁金60億円 個人情報保護法改正(GDPR/CCPA)によるアドテク負債
─ サブスク課金の分岐点探し Amazon Primeの年会費増が示唆すること
─ 「クルマの目」が新たなガーデンを構築する Teslaを揺るがすComma.aiの価値
─ 約10兆円のActivision Blizzard買収が完了 Microsoftの新概念事業の始まり
─ 「広告エージェンシー」という概念の終焉
─ Kura Sushi USAが見せる「寿司市場の日米逆転」
─ 「コンサル vs 広告会社」に一解を与えるアクセンチュアと財務の背景
─ OpenAI が掲げた千兆円超の巨額資金調達、天文学的な構想の最重要基盤とは
─ WalmartがCTVメーカー「VIZIO」を買収 リテールメディアが「家庭のリビング」へ拡張
─ AirbnbとUber、WeWorkの決定的な違い シェアリング事業が秘める社会価値とは
─ 米国テレビ局大手も苦戦中のストリーミングに「YouTube TV」が参入
─ 日本での投資が待たれる、ユニファイドコマースという新業態
─ Oracleが広告事業を撤退、市場の変化を示す重要なシグナル
─ スポーツコンテンツの広告市場がビッグテックと比例し成長中
─ 「DE&I」の潮流に、縮小への方向転換が起こる可能性
─ 過去10年、成長乏しい広告エージェンシー 成長の可能性は「広告」の外にある
─ Amazonが自動車販売へ 「ノンエンデミック」に広がるリテール業界の可能性
─ 「多極化」が日本の追い風に トランプ2.0の見えざる恩恵
─ 放送電波の利用料が示す、日本のテレビ局ビジネスの根本的な課題(本記事)
ソフトとハードの分離なき「垂直統合」の日本の放送ビジネス
図1は、日本の主要テレビ局および通信キャリア企業が国に支払う、年間の電波利用料を示している。日本の放送ビジネスの構造がわかる貴重なデータだ。
東京の民放キー局の電波利用料支払は、6〜7億円程度。キー局各社の放映事業収入は2,200〜2,800億円なので、ほんの0.3%程のコスト比率だ。日本の全テレビ局に広げても放映電波料の合計(2023年度)は約55億円で、同年の地上波民放テレビ局全体の広告費1兆6,095億円を分母とすれば、やはり0.3%程度のコストである。
もちろん、放映にはこれ以外にも様々なコストが発生するが、一定の保護を受けた事業環境であることは理解できるだろう。

日本のテレビ局は、放送電波という希少な資源(事業インフラ)を格安で利用し(預かり)、その上で自社が著作権を持つ制作番組を、自社で放映して視聴者にリーチし、広告収入を得ている。さらに番組制作(ソフト)と放送(ハード)が分離されていないので、言わば「垂直統合」のビジネスモデルが維持されている。結果、自社利益を最大化させるために、一時的な視聴者のインプレッション(視聴数)の最大化を目指す番組作りが優先され、コンテンツのクオリティや二次利用のビジネス展開が限定的になってしまう。
ソフトとハードが分離されている例として、医療産業においては、病院側の診療モチベーションが目先の薬の販売量増加にならないよう、「医薬分業(分離)」が確立されている。欧米の放送業界でも同様に、番組制作(ソフト)と放送(ハード)の分業は進められてきた。
たとえば、米国では1970年代にテレビ局の過度な支配力を抑制する目的で、FCC(連邦通信委員会)が「Fin-Synルール」を導入した。これにより、制作会社が著作権を持ち、配信事業主に転売できるモデルが発展。電波を持つテレビ局は制作会社の番組コンテンツを広く流通(販売)して利益分配を上げる事業に注力することになった。厳密にはFin-Synルールも1993年に見直されたが、30年以上にわたる業界風習として定着している。
興味深いことに、実は日本の放送改定法(2010年改定)でも制作と放映の分離原則が示されている。しかし、地上波テレビ局においては「完全義務化」には至らず、「ソフトとハードの一体化」の事業形態も容認されている状況だ。