※本記事は、2020年11月25日刊行の定期誌『MarkeZine』59号に掲載したものです。
米国で顕在化し始めた映像コンテンツの価値逓減
日本市場より3歩先を行く米国市場では「映像コンテンツの価値の逓減」が、既に始まっている。もちろん映像コンテンツの総価値が突如消失するという極論ではない。むしろ今年に入り「Zoom」や「Teams」のライブや録画、そして「TikTok」等のSNS上での新しい映像配信に注目が増大している。
コンテンツ数や配信ルート数が広がることで、一つひとつの個別の映像価値が希薄化する傾向は理屈としてわかる。さらに映像事業におけるコンテンツ(番組)が、ファネル上部での「集め役」に終始するあまり、いわば事業拡大のための客寄せ「紙芝居」の役割が大きい。採算の回収価値である「飴玉」が見えてないことが価値の逓減につながっている。日本でもすぐに来る「対岸の火事」の予兆として見える。
Verizonの広告事業離脱 その後を追いかけるAT&T
あの「Yahoo!」や「AOL」を傘下にもっていた米「Verizon」が2018年に突如、映像配信による広告データビジネスを主流事業から切り離したのは記憶があるだろう。Yahoo!やAOLの「データ・ターゲティング」業界の有名CEOたちは既に米通信業界から退散している。
それから遅れること2年、「AT&T」もようやく今年、自社の本業たる(電話)通信事業への回帰に向けて、「軽い価値」側のデータである「広告収益」を外す方向に腰をあげた。筆者はこのAT&Tが本業である「重い価値」側へ集中投資する動きこそが、今年9月に発表された日本におけるNTTによるDocomoの吸収に共通する動きにも影響したと考える。
AT&Tは2015年に約5兆円(490億ドル)で買収した衛星放送テレビの「DirecTV」の売却を検討している(※1)。これに連動するように広告部門「Xandr(旧・App Nexus)」の売却も模索しているようだ(※2)。
AT&TがDirecTVを買収した頃は、通信パイプを通じて北米2,600万世帯の顧客に映像コンテンツを配信する「金脈パイプ」を獲得したつもりだった。
さらにAT&Tは続けて2016年にそのパイプへ流すコンテンツとして「Time Warner(含むCNNやHBO)」を約9兆円(854億ドル)の巨大M&Aで補強を発表。仕上げに2018年にパイプに向けて広告配信するためのDSPとして「App Nexus」(約1,800億円)を買収し、自社配信エンジン「Xandr」を立ち上げ、足掛け5年、合計約15兆円強の「広告3点セット」が完了した。
そのAT&Tが一転してパイプと広告配信エンジンの2点を切り離すのだ。こうなると残った1点の放映コンテンツ「WarnerMedia(Time Warnerから改名)」も行方が不透明になる。
GDPR以前は、AT&Tの自社契約のモバイル・ユーザーに向けて、広告の個人向けターゲティングの技術によりコンテンツの資産価値を数倍に引き上げられると判断してのM&Aだった。そのメッキを自らが剥がしているような状況だ。
※1「AT&T Again Exploring a Deal for DirecTV」
※2「AT&T looks to sell Xandr ad unit」