※本記事は、2021年12月25日刊行の定期誌『MarkeZine』72号に掲載したものです。
D2C概念の広義化で起きている混乱
日本のメディアでは、D2C花盛りの様相を見る。一方の米国では、WalmartのD2C脱却の例を筆頭に、2021年後半はD2Cブランドが明らかにさまよっている様子を目にすることが多い。「ブランドの新・理念」として出発したはずのDirect-to-Consumerの概念は、今や「D2C」の略語化によって、オンラインで販売すれば何でもD2Cと呼ばれている。整理の意味でも、旧来から存在するCPGブランド企業に話題を絞り、CPG企業におけるD2Cブランド作りで確認したい必要な視点を3つお伝えする。
1つ目は、「D2Cビジネス」と「D2Cブランド作り」の区分を混同しないことだ(図1)。
CPG企業がD2Cブランドを作るとき、「D2Cビジネス(=事業構造)」と「D2Cネイティブな新ブランドを育てること(=資産)」を混同すると、闇の中に入る。この混同をしたままでは、「ファーストパーティー・データ」の利活用の号令も、社内向きか、顧客向きかの真逆の違いがある。
2つ目は、製品(サービス)だけでなく、むしろ資本政策(金融)に目を向けることだ。1つ目の視点では、「勘違い」や「不勉強」で頭をかけば済まされるが、この2つ目の視点なしにD2Cブランドが立ち上がることはない。致命的で根幹的な部分だ。
最後の3つ目は、「スケール化」させることに囚われないこと。これに陥ってしまうのは、P/Lの利益拡大化だけが事業動機の根本に潜んでいるゆえんだ。この脱・P/L発想は、(B/Sを基軸にする)2つ目の背景と表裏をなす。
顧客と直接的なつながりを持ちたいという自社側の理由で、既存の商品をオンラインで販売したり、自社サイトを立ち上げて顧客データを獲得しようとしたりする「D2Cごっこ」は、体力のある大企業から生まれる。企業側の心理としては、「ないよりマシだ」として事業の実行が稟議承認され、開始したからには止める理由がなくなり、伸び悩みに打ち手がなくなる。
しかし、既存するCPG大企業がピボットすべきは、数十年前に手塩にかけた「過去の量販ブランドの棚製品をD2C販売化」するのではなく、「新しい事業としての苗」そのものを育てる下地として土壌の肥やしを入れ替える「土作り」だ。目の前に見える「ファーストパーティー・データの利活用」は、緊急でも重要でもない代物なのである。