※本記事は、2022年10月25日刊行の定期誌『MarkeZine』82号に掲載したものです。
Netflixが12年かけた基盤を、Disneyはわずか2年で構築
世界でストリーミング・サブスク競争への注目が高まっている中、2022年8月11日に掲載されたロイターの記事は、「ディズニー4~6月期、動画配信加入者2.21億人 ネットフリックス抜く」の見出しが新鮮だった。このトップラインの数値は、「Disneyの腕力」を発揮させた赤字覚悟の「販促キャンペーン祭り」の結果だ。Disney傘下の「Hulu」と「ESPN+」の数字を(重複を含めて)足し合わせて、Netflixよりもわずかに上回った……という意地である。
サブスク先発のNetflixは「有料=優良なコンテンツ=広告なし」というビジネスモデルを起点に2010年頃からアカウント数を積み上げてきた。「まあまあお手頃な」月額料金設定で、12年かけてアカウント数を2.2億件(世界)にまで伸ばしている。この「お手頃料金」が成立するのは、Netflixが有料コンテンツの制作費を「営業キャッシュフロー赤字」で負担しているからだ。人気なコンテンツ制作の費用計上をB/S資産として、未来に消去する=ツケにするというカラクリで成り立っている。
こうした手法でNetflixが12年かけて構築したビジネスの土俵を、Disneyはほんの2年で揃えたことになる。たとえば、日本市場の価格を見ても、Disneyは月額1,980円(プレミアムプラン)のNetflixに劣らぬプレミアムな視聴コンテンツを揃えて、月額990円でぶつけてきた感がある。
「D2C部門」と称するDisneyの「テレビ事業のサブスク」セグメントの営業収支は、今年の9ヵ月(第3四半期)で累計の赤字幅が約3,300億円(25.4億ドル)に増大。昨年同時期の約1,360億円(10.5億ドル)の赤字幅の「倍以上」に広がっている(Disney第3四半期発表資料P49)。
それもそのはず。Disney+の「赤字覚悟の販促」は、アジア(特にインド)では驚きの「月額160円(広告収入を含むユーザー1人当たりの平均収益)」というバラマキ具合い。日本とインドの1人あたりのGDPを比べるまでもなく、この価格は激安だ。そんな激安プロモーションによって、サブスクアカウント数をアジアで約6,000万件積み上げての、世界合計2.2億件(Netflix超え)達成という力技だった。
ストリーミング・サブスクのビジネスモデル、第二章へ
日本市場だけ見ていると気づきにくいのが、Disneyの「広告グローバル・プラットフォーム化」だ。インド・アジア市場では、「無料」メニューを土台(裾野)に、「Disney+Hotstar(*1)チャンネル」内で広告付きで見られるメニューをスタートさせている。特に、モバイルのみで視聴するプランは、広告付きでありながら「月額83円」という低額課金ですべてのコンテンツが制限なく見られる。薄利サブスクの収益の上に数千万単位の広告露出課金をのせて稼ぐモデルだ。
同様の手法を取るのは、オンライン映像×広告事業モデルで王者のYouTube。インド市場には約4.7億人のアクティブユーザーが存在し、その上で「YouTube Music/YouTube Premium」の有料サブスク(月額約185円)を2019年に開始している。インドの場合に限れば、Disneyが目指しているのはこの無料YouTube4.7億人市場であり、このうち何割かが「Disney+Hotstarのサブスク月額83円」に寄り添ってくれれば、という算段が見える。
Disneyに並行してNetflixの広告課金モデルも、(なんと)Microsoftとの座組が発表された(2023年開始予定)。Disney+がアジアで拡散中の広告モデル(とAmazonPrime)に対し、NetflixとMicrosoftの巨大資本がさらに集まるのだ。「CTV広告」が花盛りとなる第二章が始まっている象徴と言える。