※本記事は、2018年5月25日刊行の定期誌『MarkeZine』29号に掲載したものです。
CM枠の減少は米テレビ局業界全体の傾向
米テレビチャンネル局(ネットワーク局)のFOXが「2020年までに、1時間あたりの広告枠を、現状の約5分の1にあたる2分に縮小する」と発表し、マーケティング業界に大きな衝撃をもたらした。毎年4〜5月にかけて開催される「アップフロントCM枠売買」の交渉に向けたテレビチャンネル局による施策発表は恒例行事だが、日本にとっては「次に起こる変化」として的中率の高い情報となる。
米国では全国ネット(ブロードキャスト)のCM枠は1時間あたり平均約13分。これがケーブルテレビ回線経由の視聴になると1時間あたりのCM枠は平均16分にもなる(Nielsen調べ)。ちなみに日本のプライムタイムのCM枠は1時間あたり6〜7分なので、これと比較しても「1時間に2分(だけ)のCM枠」のインパクトは想像に難くない。そして何よりも、テレビ局自身が「CM枠数、CM分数を激減させる」意図を公言したことの意義が大きい。
FOXの営業部は、ブランド企業へのテレビ広告枠の販売において、インプレッション数(視聴数、視聴回数)をベースとした取引から離れて、コンテンツの視聴時間や注視度に基づく「番組特徴や仕組み」を使用して広告価値を販売したいという意図がある。下がりゆくNielsenの視聴数データに頼っていてはテレビが本来持つ価値を下げる一方になるからだ。
これまで各テレビチャンネル局は、目先の収入を安定させるために視聴数指標を「ギャランティード(視聴数補償)」で販売していた。下がる一方の視聴数を補填するために「CM枠を増やし続ける」という小手先の延命施策を続けた結果、1時間あたり16分というCM枠の肥大化につながった。今年のFOXがとった一転してCM枠数を「減らす」という打ち手は、いよいよ「抜本的」な変化に向けた行動の一端と読み取れる。
実はFOXだけではなく、NBCU、TNT局、Hallmark Channel局などでもCM枠削減の試みが始まっており、米国テレビ局の業界全体の流れとして捉えてよいだろう。
日本ではようやく視聴率の「パーセント」指標から「インプレッション・視聴数」へと指標が移行し始めたが、米国では既に視聴数でのカウント軸を通り越して、「Non-Nielsen」と称した広告主側の一次データとメディア側が独自に用意する二次データ、そしてサードパーティ・データのセグメントを掛け合わせた指標が主役になる。さらに「視聴時間」や「心理面」の指標がテレビチャンネル局の売り物となりつつある。
本コラムはデジタルインテリジェンス発行の『DI. MAD MAN Report』の一部を再編集して掲載しています。本編ご購読希望の方は、こちらをご覧ください。