※本記事は、2020年7月25日刊行の定期誌『MarkeZine』55号に掲載したものです。
米テレビ局の先読み投資
テレビ業界をはじめ、コンテンツの制作活動が延期され続ける一方で、視聴者の画面視聴時間は増え続けており、広告主による広告出稿の揺り戻しが始まっている。大枠の状況は日米ともに同じだろうが、米国の事情は日本での次なるステップとして参考になるので一端をご紹介する。
米国のテレビ業界では、毎年4月から各局が主催するテレビCM販売祭りである「TVアップフロント」営業の実施が、次の9月からの丸1年分のテレビ番組による広告収入の要だった。現在は去年受注したはずのオリンピック特需がキャンセルになり、日々のスポット出稿も中止。そして来年の収益確保に向けての営業イベント「TVアップフロント」も、新番組の開始目処もたたない状態となり、各局はまさに「その日暮らし」の運営になっていた。
5月には外出自粛による逆特需もあり、スポット買いが復活しつつあるが、これは大きなトレンドとは言えない自然な揺り戻しだ。それよりも着目すべき傾向は、広告主側の「機動的な」テレビCM枠の買い付け需要が増えたこと。この状況を先読みしたかのごとく、米テレビ局は昨年より、テレビCMをテレビ局経由で買い付けない「ネット配信のOTT※1枠」におけるテレビCM買い付けの投資と買収を進めていた。
4大チャンネルすべてがオンライン上でライブで見られる「Pluto TV」はViacom(CBS)が2019年に買収し、その競合である「Xumo TV」をComcast(NBC)、そして「Tubi」をFOXが今年2〜3月に立て続けに買収完了している。買収したOTTプラットフォームはそれぞれ1,000万〜2,500万人の月間視聴者を持つ。
日本でたとえると、「TVer」上の各局のコンテンツに、フリークアウトのDSP経由でテレビCM出稿が可能になるに留まらず、加えて「FOD(フジテレビオンデマンド)」や日テレ資本の「Hulu」にも同時に簡単に配信計画ができて、さらにテレビCM送稿まで可能なプラットフォームが何社も登場し、それらをテレビ局自らが買収しているイメージだろうか。
※1 OTTとは、Over The Topの略であり、テレビ画面の上を行くという意。ネット回線を通じて動画コンテンツを提供する、通信回線経由の事業者以外の企業を指す。