※本記事は、2022年3月25日刊行の定期誌『MarkeZine』75号に掲載したものです。
今回の買収が異例の規模と言われる背景
2022年1月、MicrosoftはActivision Blizzard(以下Activision)の買収を発表した。図表1は、2000年以降に発表された世界の主なM&Aの金額例だ。
図表1にあるような過去のこれらの「巨大M&A」とは、「巨人の本体同士のガチンコ水平統合」のようなレベルだった。今回のMicrosoftのケースは、「傘下に収める一部門」の買収において、この規模に達している。これは同社の過去のM&Aの数倍規模であり、また最大である(図表2)。
ここで、Microsoftはまだ「発表を行った」だけだという段階には配慮しておきたい。Microsoft社は規制当局(司法省と連邦取引委員会「FTC」の両方)にとって「歴史的に最も目立つ」事業体である。これからの当局審査には18ヵ月程度かかることが予想され、仮にこの買収が承認されても完了するのは2023年末頃になる。
スケール化ではなく「深める」、Microsoftの戦略
Microsoftでは、ユーザーの初期タッチポイントがAppleのアップストアやGoogleを経由せずに、Microsoftのクラウド(Azure)から直接サービスを届ける「エンタープライズ・クラウド」を構築して、「繋がりを深める」戦略を展開中だ。広げる・スケール化よりも「深める」というイメージがある。
Appleは、2021年にアップストアのプライバシーポリシーの変更(ソフト販売主の広告ターゲティングに事業が制限される)を発表した。これを受けて、ターゲティング広告に依存したゲーム会社「Zynga」の株価が半減、「Take-Two」社が超割安になったZyngaのお買い得な買収を発表した。また、今回のMicrosoftとActivisionのM&A発表の直後にはソニーが「Bungie」の買収を発表している。
これらは単なる人気ゲームの取り合いではない。Appleのプライバシーポリシーの変更も、MicrosoftのM&Aも、「新Walled Garden」が静かに進行している現象だ。