※本記事は、2025年1月刊行の『MarkeZine』(雑誌)109号に掲載したものです
米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』
─ 2030年、米国広告業界「次の12年」予測
─ マーケティングの雄、P&Gへのファンドの提言
─ 日本の流通企業の衰退のはじまり
─ ライブコマースの本流と本質
─ CM枠を減らす、米テレビ局の覚悟
─ プライベートDMPからCDPへ
─ GDPR起点の近未来、データは共有資源へ
─ 「ジェネレーションα(アルファ)」の輪郭
─ 西友を売却しD2C企業と手を組む、ウォルマートの意図
─ グローバル広告ホールディングスへの提言
─ オプトインの輪を拡大する、「Amazon Go」の真意
─ 巨大テック企業のM&A動向、エージェンシー・ランキングへの影響は?
─ NIKEとAmazon リアルとオンラインの顧客に対する哲学の差
─ サブスクリプション・ビジネスの新形態
─ 「5G」のデータ戦略 米VerizonとAT&Tが示すヒント
─ アンチ・アマゾン効果の追い風か 世界一に返り咲いたMicrosoft
─ サブスクから生まれる顧客接点の入り口 バーガーキングの次の一手
─ 米国で勢いづくDNVBが示唆する日本のD2C事業へのヒント
─ 「テレビ」という言葉が作る機会損失
─ Facebook「リブラ」が見据える「データの価値の再構築」
─ 巨大コンサル企業のシフトチェンジ エージェンシー業界進出の小休止
─ 情報銀行はGAFAに対抗できるのか 「わたし」のデータの預け先
─ 「リアル店舗」ビジネス衰退の原因はAmazonにあらず
─ 「データの利活用」という言葉を無意識で使うリスク
─ CCPAは対岸の火事ではない 「データを扱う理想の姿」へ向けて
─ 米国の先を行く、移動スーパー「とくし丸」の万能方程式
─ インターネット広告費の「伸び率」が示す未来
─ WalmartのD2C(DNVB)売却の裏側
─ COVID-19の向こう側、次の3年
─ Netflixは勝ち組なのか 未来のコスト上昇と新たな勝機
─ 特需後のテレビ業界 テレビCM買い付け経路のOTTシフト
─ 表面的な「ダークストア」 失敗の本質と勝ち筋
─ 個人情報保護法を超える民意の「CPRA」起案の背景
─ Amazon流、マーケティングの新概念とその技法
─ 「ターゲティング広告」に躊躇し始めた米テレビビジネス
─ Alibabaのフィンテック「Ant Group」が示す中国デジタル通貨が世界をリードする足音
─ 巣ごもり特需の「フードデリバリー」が抱えるジレンマ
─ ゼロパーティ・データの定義再考 DSR視点からデータ活用の負債コストを見極める
─ WalmartとAmazonの示唆 米国のD2C(DNVB)は第三フェーズへ
─ ポストCookieの真意は、ターゲティング広告のGoogle/Facebook依存からの脱却
─ ニューヨーク・タイムズが12倍に成長 オンライン投資先とその姿勢
─ D2C事業の真価は「無形資産」の構築
─ 「Amazonネイティブブランド」が変えるマーケティングと収益の概念
─ NetflixのEC事業「Netflix.shop」、真の狙いは目先の売上にあらず
─ 日経電子版から考える 新聞社は配信事業から「双方向会話型」の新事業体へ
─ 日本での準備が急がれる 米テレビ広告市場のトレンド
─ 良い会社の「免罪符」ではない「Bコーポレーション」が打ち出す、ベネフィットの概念
─ D2Cの「本質」と「裏」を読み解く、3つの視点
─ 「Cookie同意ポップアップ」に見える企業姿勢
─ デリバリー業界の自転車操業は、新しい業態への予兆
─ Microsoftの「新ウォールド・ガーデン」7.6兆円のゲーム企業買収にある思惑
─ 「データ越境移転」の制限 Facebook/Instagram欧州撤退の可能性
─ マーチン・ソレル氏のS4 Capitalが開拓していく、デジタルコンテンツの先行市場
─ 水と油のごとく二分する「重い側/軽い側」のデータの価値
─ Twitterの脱・広告へ イーロン・マスク氏が唱えるビジネス側の理由
─ Nielsen視聴率騒動とNetflix/Disneyの広告枠参入
─ 米国の広告出稿ランキング常連に変化、ダントツ1位の広告主は
─ 「テレビのD2C化」は第二章へDisney+/Netflix参入で広がる、CTV広告の出し先
─ Googleが撤退した分野こそ、ビジネスチャンス
─ マクドナルド/スターバックスを凌ぐファストフードチェーン「Chick-fil-A」のブランド資産
─ 米国D2Cユニコーンは、「反動」を乗り越えて
─ 「変化」ではなく「変数」を捉える。次の5年へ向けて『広告ビジネス2028』
─ データに価値をもたらし、事業を発展させる「保険事業」という機能
─ 米国リテールのパーパス経営 Targetが見せるPB展開
─ OpenAI/ChatGPTをBtoB視点で考える Microsoftの事業戦略
─ eスポーツという名の「新・金融」カテゴリー
─ リセール市場の成長を牽引 RaaSがつくる循環型経済
─ GAFAMと広告エージェンシーの企業価値
─ Criteoに制裁金60億円 個人情報保護法改正(GDPR/CCPA)によるアドテク負債
─ サブスク課金の分岐点探し Amazon Primeの年会費増が示唆すること
─ 「クルマの目」が新たなガーデンを構築する Teslaを揺るがすComma.aiの価値
─ 約10兆円のActivision Blizzard買収が完了 Microsoftの新概念事業の始まり
─ 「広告エージェンシー」という概念の終焉
─ Kura Sushi USAが見せる「寿司市場の日米逆転」
─ 「コンサル vs 広告会社」に一解を与えるアクセンチュアと財務の背景
─ OpenAI が掲げた千兆円超の巨額資金調達、天文学的な構想の最重要基盤とは
─ WalmartがCTVメーカー「VIZIO」を買収 リテールメディアが「家庭のリビング」へ拡張
─ AirbnbとUber、WeWorkの決定的な違い シェアリング事業が秘める社会価値とは
─ 米国テレビ局大手も苦戦中のストリーミングに「YouTube TV」が参入
─ 日本での投資が待たれる、ユニファイドコマースという新業態
─ Oracleが広告事業を撤退、市場の変化を示す重要なシグナル
─ スポーツコンテンツの広告市場がビッグテックと比例し成長中
─ 「DE&I」の潮流に、縮小への方向転換が起こる可能性
─ 過去10年、成長乏しい広告エージェンシー 成長の可能性は「広告」の外にある(本記事)
俯瞰で見る過去10年の企業価値推移
日本では、2024年、日経平均株価が1989年以来の史上最高額を更新した。一方、米国の上場企業総額は、2014年12月から2024年6月の10年間で約2倍(110%の成長)に増大している。この「10年で約2倍の成長」をベンチマークに、広告エージェンシーとビッグテックの企業価値を客観的に考察する。
![筆者がこの10年で出版した書籍2冊(いずれも横山隆二氏との共著、翔泳社)。本稿は、長年業界を俯瞰で見てきた筆者による業界の定点観測であり、潮目の変化の解説である](https://mz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/47815/47815_5.jpg)
【図表1】は、2014年11月時点と2024年11月時点で比較した、上場広告企業とビッグテックの企業価値推移である。2014年以降に上場した企業は上場時点の数値とした。まずは俯瞰でこの10年の流れを見てみよう。
![図表1 上場広告企業とビッグテックの企業価値10年比較(換算レートは10年間の(兆円規模での)一律比較を目的とするため、平均値として1ドル=120円を採用)](https://mz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/47815/47815_4.jpg)
広告に閉じず、新たな枠組みでの成長を
かつて、世界の5大広告エージェンシーグループと言えば、WPP、Omnicom、Publicis、Interpublic、電通Gを指していた。しかし、現在では「コンサル系」や「ITインフラ系」の企業がランキングに加わり、Accenture Song、Deloitte Digital、PwC、IBMといった企業も存在感を示している。
この10年間の企業価値推移を見ると、日本の広告エージェンシーは成長率が低い。海外のOmnicom、IPG、Publicisは一定の成長を遂げているものの、ベンチマークとなる「2倍」の成長には遠く及ばない。さらに、マーティン・ソレル氏の退任後、WPPは10年前から半減に近い状況だ。
![図表2 世界と日本の広告企業価値比較(各市場データを修正し筆者が作成)](https://mz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/47815/47815_02.jpg)
一方、新興事業モデルであるThe Trade Desk(TTD)の2024年時点の企業価値は、もはやOmnicom、IPG、Publicisを合計した規模にまで達している。広告系のビッグテック企業であるGoogle(Alphabet)やMeta(Facebook/Instagram)も、その企業価値は数百兆円規模に及ぶ。Googleに至っては、10年前でも既に約50兆円だった巨人サイズの規模が、260兆円超えにまで成長した。
注目すべき点として、旧来の広告エージェンシーのビジネスにもGoogle広告、Meta広告の配信・取扱は含まれている。その上でこうした企業価値の差が生まれているのだ。この伸びの差は、広告ビジネスを主軸にしているように見えるGoogleやMetaの中で、単に広告という枠組みを越えた別次元での価値成長が展開されていることを示唆している。
従来の「広告会社」という呼称や概念が、業界の発展を制約している可能性も考えられる。横山隆治氏が筆者との共著『2030年の広告ビジネス』で「広告業界という“業界”はなくなる」という指摘をしていたが、これがまさに現実化しつつある様子だ。その矢先にOmnicomがIPGを合併(買収)するニュースが飛び込んで来たが、これも水平同業に閉じた策に過ぎない。
広告に閉じた事業領域や広告データの最適化(ターゲティングや配信)、広告メッセージの制作・業源に依存するモデルは、限界を迎えつつある。片やビッグテックではAIとクラウドを基盤とした新たな事業モデルへのシフトが進行中だ。
AIビジネスも広告業界では「LLM(Large Language Model)」の活用に偏りがちで、プロンプトの技術やアウトプットが「言語コミュニケーション」の域を出ない。今後は「現在起点のシフト」ではなく、「まったく新しい次元への拡大」が求められてくる。
従来の広告の枠組みにとらわれないことだ。次の10年へ、未来を始める2025年としよう。