※本記事は、2021年3月25日刊行の定期誌『MarkeZine』63号に掲載したものです。
米Walmartが「DNVB」事業の戦略を転換
日本でもようやく、DNVB(Digitally Native Vertical Brand)の概念が認知され始めた。本連載でも、「WalmartのD2C(DNVB)売却の裏側」として、米国リアル・リテールの巨人であるWalmartのDNVB企業の買収と売却の動きを紹介していたが、米国ではさらにその次の段階に進んでいる。
Walmartは、これまで数千億円の資本を投下してきたはずのD2Cブランド(DNVB)の育成よりも、本来の自社事業の要である「生鮮品」の販売の一環で、顧客へのデジタルパイプでつながる「宅配」に向けて事業強化の舵を切った。競合のAmazonは既に「Amazon Fresh」店舗の増設を随時行い、さらに近隣宅配を想定して並走している。このWalmartの事業戦略の転換は、実は日本での地域生協(Coop)でも進み始めている。流通・ブランド企業などの次ステップに向けて、大きな先取りヒントが足元にもある。
WalmartのDNVB投資、その結果
図表1は、Walmartが2016年に会員制ネット通販「Jet.com」(後述のマーク・ローリ氏が起業)を買収した以降の動きをまとめている。Walmartにとってその後の2017〜2018年がDNVBへの出資ラッシュ時期だったとわかる。当時は旧来型の流通企業WalmartによるDXへ向けた脱皮手法として、DNVBへの投資が脚光を浴びていた。ところが2019年以降は、その流れが反転している。
その反転とは、これまでにWalmartがスカウトしたDNVBの創業セレブCEOたちが相次いで離任している様子だ。2019年10月に「Rent the Runway」創業者のジェニファー・フレイス氏が退任。続いて同年12月には「BONOBOS」を創業したDNVBの申し子であるアンディー・ダン氏も退任した。さらには2021年1月に、WalmartでDNVB領域の根幹・陣頭指揮をとっていたマーク・ローリ氏すらも退任することが発表された。
Walmartはこの2016年にマーク・ローリ氏が創業したJet.comを獲得して氏を迎え入れ、WalmartのEC市場シェアを当時から比較して2倍以上に成長させ、2020年9月時点で5.8%まで上昇させた(同時期のAmazonのEC市場シェアは39%)。比例するようにWalmartの株価も2倍の規模にまで成長させた結果がある。
その一方で、WalmartがこれまでDNVB関連に投じた投資金額は、米国内だけでも合計約4,000億円以上。これだけの資金があれば、たとえば40億円規模の「巨大」フルフィルメントセンターを100拠点も配備できていた、とも解釈できる。