DNVB育成よりも生鮮食品宅配のパイプづくり
旧来のWalmartの思考では判断できなかったこととして、マーク・ローリ氏の采配でWalmartは2020年9月、「Amazon Prime」に対抗した「Walmart+」を発表している。食料品の当日配達と、一般商品の翌々日配達をAmazonより安い年間98ドルのサブスクにて口座を広げる方法だ。ところがWalmart全体に貢献した利益に注目してみると、実業店舗事業では約7,000億円の黒字利益を作っているのに対して、EC事業は約2,000億円の赤字(未公開の推定)を垂れ流す状況だったようだ。
Walmartの戦略転換から、ブランド獲得よりも、足元の「ECフルフィルメント施設」へ強固に投資する意思が読み取れる。WalmartやAmazon等の流通企業が、儲けが出ないとわかっていても「生鮮食品狂想曲」に参入するのは、冷蔵しても日持ちしない生鮮品を「毎日お届けできるパイプ」を構築し、まずはみなさんに不便なく使ってもらうことで、数年先の長期LTVにつながると気づいたからこそ。
日本にも多くのアイデアがあり、たとえば「クール宅配便」は、Amazonも驚くLTV構築のフックを築くビジネスモデルの材料だったはずだ。他にも日本の駅ビルに入居するスーパーやモールも、一等地を活用した近隣への生鮮品のお届けなどは可能で、「宅配の向こう側」の価値創出が在り得る。
Walmartより一歩抜きん出るAmazonは、単なる宅配のスケール化の薄利を求めていない。Amazonが高利益率事業である「PillPack(医師処方箋薬の宅配)」を買収したのが2018年で、Walmartが類似事業に投資を始めたのが2020年の「CareZone」買収で、ここに2年の時差が見える。今後は利益の差にも注目しておきたい。