※本記事は、2019年6月25日刊行の定期誌『MarkeZine』42号に掲載したものです。
DNVBの本質は「ブランド/イズム」が生む価値
米インターネット広告協会(IAB)が2年連続で「D2C(Direct to Consumer)ブランド」について長編レポートを発表している。これは「ネット広告」や「デジタルマーケティング」の領域を管轄するIABでさえもが、「ブランドこそが第一のメディア」になる未来に着目し、レポートを発信し続けた変化の現れだ。
このIABの動きの背景には、2017年に米国の「広告主」協会(ANA)が別名「Digitally Native Vertical Brand(デジタリー・ネイティブ・バーティカル・ブランド/以下、DNVB)」と称してレポートを発表した流れに沿うものである。
DNVBという言葉の定義は、米Walmartが買収したオンライン男性アパレルの「BONOBOS」の創業者であるアンディー・ダン(Andy Dunn)CEOの造語を語源とする。上記ANAのレポートでのDNVBの説明では「デジタルをネイティブ」とした起源で立ち上がった事業が、「バーティカル産業に特化」して、「ブランドを育む」ことを目指し、新しい価値を生む気概のある事業が成長している様子を、単なるD2Cとは区別して紹介されている(図表1)。
現在日本で立ち上がっているD2C事業の大半は、旧来のEコマースを基本とした「直販形態」によるPL上の利益に矛先が向いている。これに対して欧米でのDNVBが目指す最優先順位は「ブランド」価値の創造であり、ゴールはBS上におけるブランド価値の向上(高値売却)である。欧米でDNVBが成長しているのはブランドとしての、「メディア」発信に魅了される人々が増え続けているからだ。
その起点の違いを表す一例として、日本のD2C事業は米国のDNVBと呼ばれるブランドと比較すると、各SNSの熱狂ファン数(フォロワー数)が「桁違いに」小さく、右肩上がりの成長も見えない点がある。
たとえば米国のDNVBで、超ニッチ商品である「男性、ひげ剃り刃」を流通させる「Dollar Shave Club」(ユニリーバが買収)のFacebookフォロワーは327万人だ。一方の日本では同様のひげ剃り刃でのD2C比較対象は見当たらず、カテゴリーを広げてファッション領域のD2Cで知名度のある「メチャカリ」「エアークローゼット」を例にしても5,000〜7,000人程度のフォロワー数で停滞している状況だ。日米の人口差を加味しても販促事業が目的になってしまっては、熱狂ファンを生む意図がないことが読み取れる。