※本記事は、2020年12月25日刊行の定期誌『MarkeZine』60号に掲載したものです。
世界最大規模のフィンテックIPOを延期させる、中国政府の余裕
Alibabaグループ傘下のフィンテック会社で、「Alipay(アリペイ/支付宝)」を運営する「Ant Group(アント・グループ/以下、Ant社)」。今年11月5日に資本調達額の規模で世界最大のIPO申請を予定していたが、中国当局が突如一時延期の指導をした。
「金融のデジタル化」のトレンドは、マーケティングやDX領域をすっぽり包み込むほどの巨大な概念で、今やその震源地が(米国だけでなく)中国である可能性は大きい。この背景において、今回のこの中国当局からの「一足先に世界一に輝くはずのAnt社のIPOに、待った」を中国政府自らが世界市場に提示したのは、世界をリードしている中国ならではの「余裕」として、世界市場は見ている。
Ant社が無事に上場した後に予想されていた時価総額の規模は、なんと約32兆円(3,100億ドル)※1。これは日本の3大メガバンク「三菱UFJ-FG(5.8兆円)」と「三井住友FG(4.0兆円)」と「みずほFG(3.4兆円)」を合計した上に、さらに倍額の規模が登場するサイズである(2020年11月7日時点)。
約200年の歴史を持つ米国金融の要「J.P.Morgan Chase(3,138億ドル)」と並ぶ規模であり、「Citibank(889億ドル)」「Goldman Sachs(692億ドル)」の時価総額を軽く数倍超えたサイズなのだ。金融業の歴史において、創業15年ほどの企業が200年間制覇し続けていた金融企業群を追い越すことが、過去にあっただろうか。今後の米国の政権(と世界のトレンド)も踏まえ、世界金融のデジタル化と標準化の動きにおいて新たな展開が予想されうる。今や政治や経済の中核となる「金融再編とデジタル通貨」のリード主役は企業単体ではなく、米国単体(や日本単体)でもない、その上の大きな判断へと昇華している。