※本記事は、2022年4月25日刊行の定期誌『MarkeZine』76号に掲載したものです。
Meta社が先出し報告する欧州撤退
Zホールディングス傘下のYahoo! JAPANは、2月1日、英国と欧州経済領域で、大半のサービスの提供を4月6日以降に中止することを発表した。続いて2月3日、Meta社は、提出した米国IRS(内国歳入庁)への年次報告書で、Facebook、Instagramなどのサービスを欧州エリアから撤退させる判断を今年中に行うと報告している(後述)。
日本では、この状況の理解が「Metaも厳しい方向に動いているのだな」程度の企業ニュースで終わっていないか。Metaのこの動きは、「明日の」日本の(いや世界中の)、全産業を含んでいる。テーマは、「データの越境移転の禁止(制限)」だ。
理解するための一助として、2つの「四角四面のたとえ話」を挙げてみる。
1.AWSのグローバルクラウドから世界に番組を配信しているNetflixは、今後「イカゲーム(Squid Game)」のような世界発信のコンテンツの、各国での視聴動向データを、米国ロサンゼルスのNetflix本社で集計・分析できない(大きな制限が発生する)。
2.日本法人である武田薬品は、約5兆円で買収した英国Shire社と医薬データを日本本社で交換できない。あるいは、ソフトバンクが再開させる英国Arm社との新技術の開発において、ソフトバンクの技術チームとArm社はデータ交換ができない(大きな制限が発生する)。
このような状況へと進む道の入り口に立ったことを、Metaが先発で自白してくれたのだ。
4年もあった猶予も時間切れ まずはGAFAMが動き出す
これまでMAD MAN Reportでは、企業(ミクロ)単位での「データ保有コスト」のマイナスリスクについて警鐘を鳴らしてきた。それらは、データを利活用する攻めの部分だけでなく、守りの部分のDSR(Data Subject Request ※1)をはじめとする消費者保護の見地から、企業自身のデータに対する向き合い方を問うものだった。
今回のMetaの自白発表で本格化していく「データの(欧州からの)越境移転の禁止」は、さらにマクロの次元のものである。2018年5月から施行されたGDPRの文面では「EU外への個人データ転送の禁止」について既に触れられていたが、施行から4年経った今、その猶予が切れて「実働」が始まった。「もう、待ったなし」の状況であると自覚したい。
そして、この流れは必ずGAFAMへ連鎖し、顕在化が始まる(ことが想定内で準備されている)。これらの目立つ欧米企業だけにとどまらず、日本企業、日本政府にも「実務影響」が及ぶ。先回りのMetaでさえも、この判断には約2年の準備期間を要したことも忘れてはいけない。