※本記事は、2022年2月25日刊行の定期誌『MarkeZine』74号に掲載したものです。
「Wolt」の東京進出の実態
デリバリー事業の「Wolt」が、2020年10月ついに東京に進出した。本社はフィンランドのヘルシンキにある欧州社による海外市場拡張の日本法人の事業だ。
Woltジャパンは、「ちょっと珍しいメニュー」や「こだわりのレストラン」を開拓し、世田谷区や目黒区のような住宅密集地から事業を進めることで配送(質)効率を上げつつ、巨大チェーン店からも「限定メニュー」を採用するといった施策に尽力中だ。
気づきたいのは、これらの宅配物品のローカル工夫は、Woltに限らずすべてのデリバリー業が当然に行う微差であるという点。物品や地域選択の最適化は、単なる「濃縮作業」程度で、(画期的な)「飴玉事業」を生み出さないままの水平(現状)の先延ばしである。
案の定、ドイツを本国とする「Delivery Hero」が運営する「Foodpanda」が2021年12月に日本からの撤退を表明した。これは「過当競争」が理由なのではなく、事業モデルが(多少凝った)「物品宅配」のスケール基準(だけ)であることに起因している。
世界的なM&Aも付け焼き刃
そのWoltも、欧州各国他23ヵ国に水平拡大して、日本市場に進出。2021年11月に、米国サンフランシスコ発の「Door Dash」に約9,000億円で買収された(参考記事)。
このようなデリバリー事業の「世界スケールでの水平統合」は、既に7〜8年前から起きている終わりの見えない「ナゾな」出来事だ。たとえば、米国の4強ブランドの1つ「Grubhub」は、ど・競合だった「Seamless」を2013年に買収している。そのSeamlessは、それ以前に大手だった「Menu Pages」を買収していたのに、さらに買収される飲み込み合戦である。さらに、「飲み込んだ」側のGrubhubも図表1の低迷ぶりで、2020年6月に欧州の「Just Eat Takeaway」によって約8,000億円で買収され、飲み込まれている(参考記事)。
一方で、「Uber」に至っては2020年を起点として、今やもう「タクシー配車事業体」より「フード宅配事業体(Uber Eats)」の軸足が太くなった。実際、Uberの売上高比率は、「タクシー配車:Uber Eats」が「6:4」にまで迫っている。ところが、Uber Eats部門の純利益やEBITDA※1利益を切り出してみると、大赤字のままで、タクシー配車事業部門で生んだ黒字利益を「食う」形でかろうじて成り立っている状態だ。
参考までに各デリバリー事業の損失額を、「特需」であったはずの2020年度で以下並べて見ると、まさに「下り坂で止められない」自転車操業モデルが世界中で「同時多発」進行中で、M&A連鎖での拡大も付け焼き刃程度、赤字度合いが止まらないことが見て取れる。