※本記事は、2021年5月25日刊行の定期誌『MarkeZine』65号に掲載したものです。
特需の波に乗ったニューヨーク・タイムズ
The NewYork Times(以下、NYT)のデジタル版アカウントの伸長が絶好調だ。この事例から、国内パブリッシャーや日本企業が向かう方向性のヒントを考えてみたい。
2020年は、パブリッシャーやコンテンツ提供者にとって、オンライン経由でのサブスクリプション事業はアカウントを拡大する千載一遇の「特需」期だったはず。ところが身の回りで(たとえば)2020年に(あの有力な)日経IDの購読申し込みを増やした事例を見かけただろうか。逆に解約をした心当たりはないか。この自問は日経だけではない日本の各新聞社やテレビ局にも共通する「特需」期にも伸び悩む傾向の一つだ(※1)。
今から10年前、NYTは「いよいよ紙の新聞が読まれなくなる」とデジタル版へ軸足を移す決意をした。2011年当時、NYTはニューヨーカーだけが読む典型的な「地方紙」で、発行部数はたったの110万部ほどだった。その後も発行部数は逓減し、2020年末で80万部台まで落ち込んでいる。
事業決意の結果、NYTのデジタル版の購読者数は2011年には約40万件であったのが、2020年には約12倍の約510万件にまで伸長。2020年の「特需」期には約50%伸ばして、本紙(+その他 ※2)合わせて約750万件の有料アカウントに成長し、本紙の部数比率は10%になった。
NYTは技ありの経営軸シフトの結果、印刷版本紙とデジタル版を合算した購読者からの売上が2011年は約780億円(7.06億ドル)だったが、2020年には約1,315億円(11.95億ドル)にまで成長させた(図表1)。
※1 日経電子版は特需時期の2020年後半7月以降の6ヵ月は、有料会員数が7,700件ほど減少
https://www.nikkei.com/topic/20210115.html
https://www.nikkei.com/topic/20200715.html※2 ゲーム・料理・オーディオなどのサブスクリプションアカウントを指す。約160万件にのぼる。