※本記事は、2018年12月25日刊行の定期誌『MarkeZine』36号に掲載したものです。
AdobeやSalesforceがエージェンシー・ランキングの上位に?
Google/Facebook/Amazonだけに留まらず、大型テクノロジー企業のマーケティング業界への進出が活発だ。その変動を引っ張っているのは、2018年9月に「Marketo」を約5,200億円(47.5億ドル)で買収すると発表し、業界を驚かせた「Adobe」だ。この金額は電通が巨大買収したAegisの約4,000億円(2012年当時)を上回るサイズである。直近のM&A状況を振り返ってみると、「身近な」アドテク&マーテク企業が、巨大テック企業に買収されている事例を頻繁に見受ける。
Adageが毎年集計する「Agency Report」では、2015年ごろから「Deloitte」「Accenture」「PwC」に代表されるコンサルティング系企業が突如ランキング上位に現れ、大きなトレンドとして注目された。その背景には、コンサルティング系企業が続々と「デジタル・エージェンシー」を買収して「クリエイティブ・デザイン機能」を吸収した経緯があった。
このトレンドがさらに進化し「B2Bマーケティング・オートメーション(テクノロジー)」分野の企業が、マーケティング・エージェンシーとして上位にランクインする可能性がある。たとえば前出のAdobeをはじめ、IBM、Oracle、Salesforce、SAP等の「テック巨人企業」たちが、WPPや電通を抜き去ってランキングで上位にランクインするイメージだ。集計方法の変化は、業界の心理にも影響を及ぼす大きな流れを生む。
マーケティング・オートメーションの「テクノロジー・ドリブンな企業」の事業エリアは、「アドテク」よりも「マーテク」と区分されるが、「クリエイティブ・エージェンシー」の領域からは少々「遠い」分野である。しかしながら彼らのマーケティング・クラウドを用いた事業範囲は、電子商取引をはじめコンテンツ開発、オーディエンス解析、物販&営業ソリューションと幅広く、扱い高が大きい。
調査会社の「Forrester」によるB2Bマーケティング・オートメーションの世界市場の発表では、2017年の約1,430億円(13億ドル)市場から19.4%ずつCAGR(毎年の複利成長)にて成長し、2023年には約4,000億円(37億ドル)を突破する予想である。まだAdageの集計範囲には含まれていないが、これらの数字は「マーケティング」領域としては外せなくなっており、いずれ「テクノロジー企業」がエージェンシー・ランキング上位に「突如」登場する日も近いだろう。
これまでのマーケティング・エージェンシー領域におけるM&Aは、WPPや電通をはじめとした広告&マーケティング出身企業が「のし上がって」デジタル・テクノロジー企業を飲み込み、巨大化するパターンであった。しかし今後は、逆に「巨大が微細を補填する」方向が色濃くなる。巨大なOracleやIBMといったテクノロジー企業が、アドテク・マーテクというロングテールなニッチ・テクノロジーを吸収して、総合サービス化へ「降りてくる」動きに注目しておく必要がある。ちなみにAdobeの1社の企業価値は広告ホールディングス5社(WPP/Omnicom/Publicis/IPG/電通)を合算した企業価値よりはるかに大きく、DeloitteやOracleになると、5社合算の倍以上の規模を持つ。