※本記事は、2023年5月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)89号に掲載したものです。
OpenAI/ChatGPT、BtoBでどう儲けるか
ChatGPTというアプリを試した人たちの「これができる! あれもできた!」という体験記で賑わっているが、BtoB事業者目線で、見えていない事業モデルや矛先を考えておきたい。OpenAIを使ってどう儲けるのか、だ。
OpenAI社やChatGPTは、Microsoftが買収したわけでも、100%販売委託したわけでもない。平たく言えば、一時的なBtoBライセンス・パートナーである。MicrosoftはOpenAIに出資したとはいえ、ChatGPTの技術(ライセンス)は自社のMicrosoft Azure(クラウド)の営業ツールに過ぎない。営業ツールとして1兆円規模の出資をした、という考えでも良いかもしれない。
AI領域への参入には、資金、体力、覚悟が必要
OpenAI側にも、Microsoft側にも、ChatGPT技術(ライセンス)のビジネスを開拓する営業責任者(営業パーソン)が存在する。たとえば、OpenAIとMicrosoftが競合関係にあるとして、大口顧客のSalesforce社に両方からアプローチしたら、どうなるだろう。
さすがにSalesforceがMicrosoftに企業インフラを発注依頼することはできない。それどころか、SalesforceでもChatGPTと似たようなソリューションを既存/新規クライアントに提供し始めたようだ。SalesforceがOpenAIとの直接契約でChatGPT技術を採用したとき、この単体契約での営業利益分配は不明だが、OpenAIの最終利益の75%は出資者であるMicrosoft社に流れる契約だと噂されている(投資額が回収できた後は一定の上限を設けて49%に下がる予定)。つまり、回りまわって、Salesforceとの契約での利益がMicrosoftに流れる仕組みだ。
別のテック系クライアントB社の「たとえ」も考えてみる。B社はGoogle Cloudを企業基幹として利用していたが、Microsoft Azureの営業担当者がOpenAI/ChatGPTを材料に基幹アカウントをひっくり返すことができたとしよう。B社の場合は、OpenAIと直接契約するよりも、Microsoftの「Azure Open AI Service」を経由してChatGPTを利用するほうが、ビジネススキームをスムーズに理解してくれる上に、Azureのセキュリティ機能がOpenAIよりも信頼度が高いと判断したらしい。
この例での示唆は、OpenAIとの直接契約は「実験」程度では使えても、エンタープライズ・グレードでいざ採用となると腰が引けてしまうというBtoB事業の習わしだ。チャットボットや検索エンジン、CRMなど顧客の営業機能を下支えする土台は、「詐欺検出アルゴリズム・セキュリティ」「コンプライアンス・データプライバシー機能」「ESGを含めた非財務情報」などが完備されていなければならない。なおかつ、それらをまるっと大規模言語モデル(AI)で包括できるクラウドプロバイダーである必要がある。
そのためには、巨額の開発資金とパワーを「長期(数年)」に投じ続けるレベルと覚悟が求められる。未来の事業リターンを見越した開発でなければ、「手を付けるとアブナイ(無駄になる)」領域だ。出る杭を打つわけではないが、ChatGPTの話題性を狙うばかりに、数千万~数億円程度の規模かつ日本市場に閉じたローカルな発想で、アプリレベルでの投資・開発をするようでは、淘汰されるのが目に見えている。