※本記事は、2018年4月25日刊行の定期誌『MarkeZine』28号に掲載したものです。
ファッション業界のエコシステムの変化
米国では毎年2・9月の年2回、ニューヨーク・ファッション・ウィーク(NYFW)が開催される。かつてはファッションブランドの一大マーケティングの場として機能していたが、長らく冠スポンサーを務めていたメルセデス・ベンツをはじめ、参加を辞退するブランドが続々と増え、その地位は揺らぎつつある。
その一方で、中国アリババ傘下の「Tモール(天猫)」がNYFWのスポンサーとして2017年9月から参加している。Tモールは中国最大規模の越境EC専門のモールであり、2017年11月11日の「独身の日」には1日で約2.8兆円を売り上げて大きな話題となった。アリババ創業者兼会長であるジャック・マー氏の目標は、グローバルで20億人へのリーチだ。単なる冠スポンサーであったメルセデス・ベンツとは違い、アリババは実利とビジネスモデルをもってNYFWのエコシステムに変化を突き付けている。
ファッションにおけるオンライン上での情報流通スピードは加速している。今やショーでのランウェイで発表されたばかりのファッションは、高額の「ペイド」費により最前列に招待されたモデルやセレブリティが「インフルエンサー」と化し、ソーシャルを通じてミレニアル世代の消費者に伝えていく。
ソーシャル全盛になる以前は、ブランド企業はランウェイに、ビヨンセのようなハイセレブリティを招待し、そのコネクション度合いを披露することが注目を浴びる要素だった。それが今では、ショーの最前列の席には、ファッション・インフルエンサー(インスタグラマー)たちが割り込んでいる。
今やファッションブランド側は、巨大予算を投じてNYFWに出展・参加してセレブを招待するような旧来のPRでは、ミレニアル世代の消費者に対するインパクトが薄いことは(若手)デザイナー自身が熟知している。むしろNYFWに参加せずに個展(イベント)を開催し、インフルエンサーを招待して即売ができれば、コストパフォーマンスからみて効率がよい。ファッション雑誌を中心とした情報流通メディアと、百貨店を中心とした小売・流通のパワーの落ち込みへの対抗策とも言える。
さらにはショーで発表されたファッションは6ヵ月のタイムラグを経て店頭に並べられるのが一般的だったが、ファッションブランドはコレクション発表時の「即売」に目を向け、2015年頃に「See-Now, Buy-Now(今、見て、今、買う)」販売モデルが登場した。このD2C(Direct to Consumer)販路に、トミー・ヒルフィガーやラルフ・ローレン、バーバリー等の有名ブランドが2016年頃から一斉にシフトし始め、パニックのようなブームとなった。日本でも「東京ガールズコレクション」で既にこの販売モデルが採用されている。
「See-Now, Buy-Now」の焦点は「即売」だ。しかし、実際に消費者のオンライン心理に合わせて即売を実現するために、プロダクトの出荷スケジュールを早めることは簡単ではない。レガシーブランドの既存生産ラインと物流機能は海外に依存しており、そのままでは対応しきれないことから、米国ではそのブームは落ち着いたように見えた。
ところがその一方、アリババは世界最大のセールの日である「独身の日」の直前に行われる世界的な中国でのファッションショー「2017年See-Now, Buy-Now」に、NYFWのデザイナーを招聘したのだ。つまりニューヨークから「ファッションショーのランウェイが、製造ラインと販売チャネルのある中国に移動した」イメージだ。
本コラムはデジタルインテリジェンス発行の『DI. MAD MAN Report』の一部を再編集して掲載しています。本編ご購読希望の方は、こちらをご覧ください。