※本記事は、2021年8月25日刊行の定期誌『MarkeZine』68号に掲載したものです。
アパレルのEC物販は、まだまだ序章
Netflixは、2021年6月10日に「Netflix.shop」を発表し、EC事業にじわりと(予想どおり)進出してきた。配信番組に関連した「アパレル商品や雑貨」の販売サイトとして、まずは米国からスタートし、数ヵ月で他国にも展開していく予定だ。
このNetflixの動きを、New York Timesなどをはじめとしたメディアでは「EC物販はNetflixの新しい収入源となり、サブスクライバーの伸び率の鈍化を補う」と解説しているが、この視点は表層的過ぎる。
今やNetflixの企業価値は約25兆円に膨らみ、日本のテレビ企業の100倍もの巨大企業に成長し、世界での有料契約者は2.1億人に届こうとしている。この次元でNetflixが描く「未来のエコシステム」が存在するはずで、小物を販売するECは「目的」でも「手段」ですらもなく、単なる序章である。
未来への赤字の繰り越し
ちなみにNetflixは、2020年に初めて営業キャッシュフローが黒字化した。コンテンツ制作費(予想は約1.7兆円)の延期による4,000億円ほどの「想定支出」が減り、逆に巣ごもり特需による有料サブスクライバーの急増により、約2,700億円の営業キャッシュ黒字に転じた(図表1)。
それ以前は年々キャッシュ赤字が約3,200億円にまで増大していたが、損益上では黒字決算を続けるカラクリがあった。Netflixの会計とは、コンテンツ制作に投下したキャッシュに対して、約半分だけを「1年未満」の資産として計上する。そして残り半分を「1年以上(〜5年)」の資産として繰り越し、未来に償却計上する。いわば雪だるま式に、赤字を未来帳簿へ繰り越して黒字にしているのだ。これはNetflixだけでなく、華々しいD2Cブランドのビジネスモデルも同様の方式が多用されている。