「つくる現場を楽しめる人材」がこれからのクライアントの標準
人材育成の場でも重要視され始めた「クリエイティブへの教養」
田村 文化服装学院で講師をしている友人が、広告やInstagramなどのSNSを活用して広報・宣伝を担当するアパレル業界のプレス人材を育てる「ファッションプロモーション」コースをつくりました。このコースでは、動画を編集したり撮影した写真を加工ができるよう育成したり、Instagramでフォロワー数を増やす知識を学んでもらうために、インスタグラマーを呼んで授業をしたりすることもあるそうです。
つまり、すでに教育機関ではこうした写真や動画などのクリエイティブを実際につくる過程まで楽しめる人材を育成しているため、そうした「つくる現場を楽しんできた人材」が、今後社会に出てクライアントになっていくわけです。そうなると昔のような、クライアントを“特別に”お客さま扱いをしたら、逆に違和感をもたれてしまう。「みんなで撮影を楽しんでいける土壌」は、これから加速度的に広まっていく気がしています。
実際に、とある撮影の担当者の方がそのコースの卒業生だったり、別の撮影では有名なインスタグラマーでもある方がクライアントの担当者だったりしたこともありました。自身で写真を撮ることも多く、「こうしたい」と意見をはっきり伝える方だったので、出来あがった写真を見せられるだけでは逆に戸惑ってしまったのではないかと思います。
こうしたクライアントの変化を撮影現場で実感することは多く、明らかに過渡期なんですよ。
同時にこういったマインドをもった方には、「表現したものに関してあまり口出しをしない」という土壌も育っている。たとえばInstagramに「かわいいコップ」の写真をアップしたとしても、「かわいい」といった反応はするけれど文句は書かない。表現者のトーンや意図に対して否定はしないというスタンスの人が増えているんです。
千葉 その写真をつくったフォトグラファーの意思を尊重するのが当たり前という空気になってきているんですね。
お互いをプロフェッショナルとして認め合うこと、そのためにすべきこと
田村 クライアントが、美的センスも社会との接続性も高い人であるケースが当たり前になる時代がきつつあります。そのためフォトグラファー側も、撮影チームのメンバーそれぞれを尊敬し、チームとして一緒にできることを考えていく姿勢になるべきだと思っています。
デザイナーにとっては前編で話にあがった「撮りたい雰囲気の写真にするために、どのフォトグラファーに依頼するか」ということがますます重要になってくると言えるかもしれません。
鹿児島 クライアントのことを事前にリサーチして正解を当てにいくといったコミュニケーションをとってしまうこともあると思うのですが、先方は製品やサービスについていちばん知っているプロ。頼るべきところは頼ったり、教えてもらったりする姿勢も大切かなと思います。同時に、デザイナーはクライアントが訴求したい製品やサービスをどのように人に伝えるか、を変換するプロとして役割を全うする。
撮影に関わる全員が何かしらのプロに徹し、それぞれの思いの丈をすべて共有し合うスタンスでコミュニケーションできるチームが、良い写真を生み出せると思っています。
千葉 仕事として写真を撮ったりデザインをしたりはしていないけれど、撮影ディレクションをしなければいけなくなった人も、もちろん何かの分野のプロだからその撮影を任されているんですよね。
たとえば私の場合、コンテンツの企画編集をするプロとして撮影に関わっています。コンテンツの構成で効果的にビジュアルを組み込めるよう設計したり、そのアイディアを形にするためにやりたいことを包み隠さず周囲に伝え、人を巻き込みながらプロジェクトを進められたりすることが強みだと思っています。
まだ自分の強みがわからない人は、まずは「自分は何のプロだろう?」「私は何をチームに投下したら良い化学反応が起きるんだろう?」と考えることから始めてみてはどうでしょうか。そこで見つかった強みを伸ばしていきながら、「私はこういうディレクションが得意」「こんなことをしたい」と周囲にも伝えていくことで1人ひとりの相乗効果が生まれ、より良いクリエイティブを生み出せるチームになるのだと思います。