CFOから見て信頼できるマーケターとは
木村:CFOはCEOの相方であるとともに、CMOの相方でもあると思うのですが、CFOからすると、どのような思考を持ったマーケターが信頼できる・安心できるものですか?
横田:ファイナンスもマーケティングも、部署こそ違えど、会社全体で掲げている“オブジェクティブ(目的)”は同じなはずです。そのマーケティング活動によって何をしたいのかというオブジェクティブや、それを達成するために何をすべきなのかがクリアになっていると安心できます。
ただ、すべてがシミュレーション通りにいくことはありませんから、最終的にそのオブジェクティブを達成できるようフレックスさせていくことも必要になってきます。わかりやすい例を挙げると、「SOV(Share of Voice)を〇〇%上げる」という目標に対して予算をシミュレーションしても、競合がそのカテゴリでどのくらい予算を使ってくるかによって結果は大きく変わってきますよね。想定以外のことが起きた時に、いかに機敏に対応できるかという点も大切だと思います。
木村:近年、マーケターでもファイナンスを学ぶ方が増えている印象があります。
横田:ファイナンスは、経営のスコアカードになるものです。ビジネスを進める中で、同じ目線で同じ言語で話せるということは当然重要であると考えます。自分たちの行うマーケティングアクティビティが最終的にどのようにファイナンスに落ちていくかというところまで、しっかり話せると良いですね。マーケティングとファイナンスで、それぞれに違う視点を入れていけば、より良いビジネスができるのではないでしょうか。
「短期の売上」「中長期のブランド成長」の両立
木村:もう一つお聞きしたかったのが、「短期の売上を作る」「中長期でブランドを成長させていく」という2つのバランスをどう取っていけばよいか? という課題です。これも難しいところだと思うのですが、横田さんの考えをお聞かせいただけますか。
横田:中長期の結果は短期の積み重ねによって作られていくものである、というところに行き着いてしまいます。実際みなさん、マーケティングカレンダーも1年だけではなく、2年、3年と長いスパンで考えられているのではないでしょうか。
木村:なるほど。単年のP&Lの積み重ねによって、3年後4年後のブランドが作られていくという考え方ですね。マーケティングカレンダーも、断続的な施策ではなく、ブランド力が積み重なっていくような持続的な施策群にしなければならない、ということになると思います。

横田:そうですね。その時、重要になってくるのがブランドのコアバリューです。コアバリューが統一されずブレていると、投資判断をする際にも「このブランドは何をしたいんだろう?」と思ってしまいます。
木村:「この施策はコアバリューから外れていないか」「目の前のプロモーションだけが目的になってしまっていないか」というようなことを考える必要があると。たしかに、昔から横田さんはこうしたお話をされていた記憶があります。
横田:短期と中長期でバランスを取っていくというのは本当に難しいところで、何か一つの正解があるわけでもないと考えています。予算は無限にあるわけではなく限られていますから、100あるリソースをどう振り分けるかという視点をもってオブジェクティブを考えていただきたい、というのがCFO目線での考えです。
木村:とても勉強になります。実際、あらゆるファネルを一気に全張りで高めようとするようなマーケティング施策は効率が悪いのです。短期の積み重ねで中長期にブランドが作られていくという考え方は、大事にしたいです。
グローバルブランドのビジョン
木村:資生堂さんはグローバル市場でも強いパワーをお持ちです。最後に、グローバルブランドとしての資生堂さんの今後の展望をお聞かせいただけますか。
横田:資生堂では2014年に魚谷が社長に就任して以降、グローバル成長の加速を掲げ、マトリクス型のグローバル経営体制を敷いてきました。本社による中央集権型から脱却し、地域に根差したブランド育成やスピーディな意思決定などができる組織体制になっています。強いブランドなら海外進出しても上手くいくというわけではなく、各地域のコンシューマーをしっかり見ていかなければなりませんから、ローカルにエンパワーすることは非常に重要です。そして、グローバルの売上構成比が向上しているのには、こうした組織戦略に加えて、各地域で築いてきた資生堂の歴史も前提にあると思っています。

資生堂は2023年2月に2023~2025年までの3ヵ年を中心に取り組む中長期戦略「SHIFT 2025 and Beyond」を策定し、持続的な売上成長と収益性を向上させるための改革を実行しています。また、中長期的な成長を目指すために、「ブランド」「イノベーション」「人財」の3つの重点領域への投資を強化しています。
日本・中国では市場回復の機会を逃さず再成長を狙うとともに、米州・欧州・アジアパシフィック事業においても飛躍的な成長を実現していきます。
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