凡庸なタイトルにのなかに必読トピックがあふれた本書
前回触れた「スモールワールド」のワッツやストロガッツ、そしてブキャナンらに比べて、アルバート=ラズロ・バラバシの名前は今ひとつ日本ではマイナーかもしれない。邦訳されているバラバシの代表作といえば、本書『新ネットワーク思考』なのだが、いかんせんタイトルが普通すぎた。学術書ならばともかく、扇情的なタイトルがつくことの多いビジネス/マーケティング関連の書籍にあって、このタイトルではなかなか手にとってもらえないだろう。もっとも、編集者はもっと素朴に「サイエンス本」として紹介したつもりであったかもしれないが。
しかし、この凡庸なタイトルとは裏腹に、本書はオンラインマーケティングのネットワーク理論に興味のある人にとっては、必読書と言ってもよい名著である。ネットワーク理論関連書はカバーする分野が広いこともあって、体系的に読みにくいものが多いが、『新ネットワーク思考』ではネットワーク研究の主要なトピックが手際よくまとめられている。これまでネットワーク理論に触れたことのない人は、まず本書を手に取って読むことをお奨めしたい。
パレートの法則からベキ法則へ
イタリアの経済学者ヴィルフレード・パレートは“80:20の法則”でよく知られている。パレートは、家庭菜園のエンドウ豆の80%が、20%のさやからもたらされていること、あるいはイタリアの国土の80%を20%の人が所有していることなどに気がついた。パレート以来、この“80:20の法則”は、多くの状況にあてはまる経験則として重宝されてきた。しかしながら、パレートの法則を数学的に紐解いていくと、パレートの法則に従う系は、ある重要な特徴を持っている。
「ためしに、知り合いの男性の身長を片っ端から測定して度数分布図を作ってみよう。身長はたいてい150センチから180センチメートルのあいだに収まり、そこにピークが現れるだろう(本文より)」
簡単に言うと、この分布においては3メートルを越す人や、30センチに満たない人を見つけるのはとても難しいということを指す。この例の場合、平均値(例えば170センチ)を取ることができる。つまり、このグループの大きさを、おおよそ170とすることができる。こうした分布を正規分布(釣り鐘型分布)と言い、自然界に現れる量の多くがこの分布を取る。
しかしここ数十年の研究で、自然界には釣り鐘型以外の分布があることが発見されてきた。“ベキ法則”である。先に挙げたパレートの法則も、このベキ法則に従っている。