ヨーグルトと並列の選択肢に何が入るか?
MZ:提供側の視点だと、N1インタビューではつい直接的な競合のことを聞いてしまいそうです。MarkeZineなら「他にどんなWebメディアを読んでいますか」とか。聞く側の視野を広げる必要がある、ということですか?
西口:その通りです。N1分析の際、今おっしゃったように、どうしても「自社プロダクトありき」になってしまうのは理解できます。おそらく、定量的なアンケート調査の項目を設計する時も同じでしょう。
もちろん、競合の状況から手がかりを得られることも多いですが、根本的に顧客が求めている便益は何か? 何を解決したいのか? そのための手段として、何が選択肢として見えているのか? を念頭に考えていくことが重要です。
例を挙げて説明しますね。自分が食品メーカーにいて、新しいヨーグルト製品の開発に携わることになったとしましょう。ヨーグルトの便益の一つに「お通じがよくなる」ことが挙げられますが、その便益を持つプロダクトはヨーグルト製品だけとは限りませんよね。他には、たとえば便秘薬や野菜ジュースが考えられます。
つまり、一部の顧客にとってはヨーグルトと便秘薬、野菜ジュースまでが選択肢として並列に見えている、という可能性が浮かび上がります。
MZ:顧客にどんな選択肢が見えているか、という観点を前提に聞いていくのですね。
西口:もし、ヨーグルトを日常的に食べている人の複数に「お通じをよくするため」というニーズがあったとしたら、今度は「便秘薬を使っている人たちは何を求めているのか」を探るインタビューをしてみると、次のヒントが得られそうです。
話を聞き、仮説を立てる。その繰り返しで仮説が深まる
MZ:つまり、聞く側が「ヨーグルト」から離れないといけないのでしょうか。
西口:はい。インタビューをした人のうち、「以前は便秘薬を使っていたけれど、今はあまり使っていない」という人がいたら、理由を聞いてみます。そこで、「便秘薬はお腹が痛くなるから、なるべく食品から食物繊維を摂るようにしたい」という思いがあったら、これから開発するプロダクトの方向性として「食物繊維を多く含む、お腹に優しくてお通じによいヨーグルト」が一つの案として浮かんできます。
もう少し踏み込むと、食物繊維なら野菜をたくさん食べるという選択肢もありますよね。でもそうしていないのはなぜか、を探っていくと「大量の野菜を食べるのは大変」というインサイトがあるかもしれません。すると、ヨーグルトで提案するにも少量で十分な繊維質が摂れたら、それは顧客が求める便益になり得ます。
ちなみにこの時点で、「お通じをよくする目的でヨーグルトを食べている人」と、「便秘薬を使っている・使っていたが満足していない人」という2種類の顧客が見えてきます。
MZ:顧客に訊ねて、それをヒントに仮説を立てて、それをまた訊ねてみる……という行き来でこのような深掘りができるのですね。仮説が具体的になり、また確度が高まっていると感じられそうです。
西口:一人に聞いて、また次に進む際に、社内のメンバーで気づきや考えたことを話し合えばより精度が高まります。ですが社内のディスカッションだけでは、ここまで具体的な仮説にはたどり着きにくいでしょう。