マーケターが「顧客目線」を保つには?
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):約1年にわたり続けてきた本連載、今回がついに最終回です。今回は、マーケターの成長をテーマにうかがっていきます。
西口:マーケティングについて、またマーケティングで成果を上げるにはどうしたらいいかを「顧客起点マーケティング」の理論に基づいて解説してきましたが、そもそも成果を上げるには自分自身の成長も必要です。一朝一夕で成長するわけではありませんが、理論と実務の両輪で実現できます。
MZ:特に第23回の「企業はつい企業目線で考えてしまい、顧客起点になりづらい」というお話が印象的でした。では、マーケターとして顧客の目線を保ち続けるにはどうすればいいのでしょうか? ビジネスパーソンとして仕事に集中していると、やはり企業目線になってしまうと感じます。
西口:おっしゃることはよくわかります。でも、これには魔法のような策があるわけではなく、やはり愚直に「この仮説や施策は本当に顧客にとって意味があるか? 価値があるのか?」を常に自問自答しながら、顧客が見出すであろう価値を提案し続けるしかありません。
ただ、そのためにできることはあります。以下のように、いくつかのステップに分解できると思います。
(1)「顧客としての自分」と、何に価値を見出しているかを意識する
(2)仕事において、顧客に会って話をする時間を定期的に持って、顧客を顧客自身よりも理解するように考え想像し続ける
(3)顧客が憑依した気持ちで、顧客の心理と行動の関係を洞察して「WHOとWHAT」の最適な組み合わせを見つける
自分は顧客として何に価値を見出しているか
MZ:(1)は、自分が自社プロダクトの顧客だったら、ということですか?
西口:いえ、そう考えてしまうと「自社プロダクトがもたらす企業のメリット」と「自社プロダクトの顧客にとってのメリット」にどうしてもジレンマが生じがちです。そうではなく、むしろ自社プロダクトから離れて、日々生活する個人としての自分の心の動きを客観視してみましょう。
たとえばコンビニでは、通常深く考えずに買い物をすることが多いと思いますが、そこで「自分は今、何に価値を感じてこれを選んだのか」を考えてみる。なぜ朝食でサラダを食べたのか、それは他のものに置き換えられないか? なぜテレビではなくスマホの動画を見ているのか? コロナ禍によって変化したライフスタイルで、どんなプロダクトやサービスがあったら皆が快適に過ごせるだろうか? など、生活に関わる自分の行動の理由となる心理を想像し、その心理に合う「価値」が何なのかから考えます。
買い物だけでなく、自分の貴重な時間を費やして行列に並んでも欲しいものや、体力を使っても入手したいものなども、自分が価値を見出しているプロダクトです。
MZ:そう考えていくと、自分の何気ない行動からもイメージが膨らみますね。
西口:それが大事です。自分自身の何気ない行動や購入、好き嫌いや選択する行動や判断に関して、なぜそうしたのか?どんな心理状態でそうしたのか? という自己分析の機会は常にあります。
顧客の理解の前に、自分自身の行動の心理を徹底的に洞察し続けて欲しいです。この思考の積み重ねが、顧客心理を理解する糸口になります。企業側、提供者側からではなく、いつも先に「顧客が見出す価値」を意識するようにしたいですね。