誰もが、誰かのために価値を提案している
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):本連載では、マーケティングに関して様々なトピックを解説いただきました。今回はそれらを踏まえて、改めて「マーケティング」とは何なのか、成果を出すために何が大事なのかをお聞きしたいです。
西口:この連載を通して、マーケティングは「継続的な価値の創出」という話をしてきました。誤解されがちですが、企業が作るプロダクト(製品やサービス)自体に価値があるわけではありません。
顧客(WHO)は誰で、その顧客が“価値を見出す”プロダクト(WHAT)の便益と独自性は何か。この「WHOとWHATの組み合わせ」を見つけて実現し、それを拡大して利益を生み出し、また新たな価値を生み出すために再投資していくことがマーケティングです。
ここまで、MarkeZineの連載としてマーケターや経営者向けに話をしてきましたが、実はどんな職務の方もマーケティングをしているんです。この考え方を知ると、仕事において社内外の様々な職務の方とやり取りする際に役立ちますし、「価値とは何か」についての考えも深まると思うので、お話ししますね。
MZ:“どんな職務の方も”とは、マーケティング業務をしていない人も全員、ということですか?
西口:はい。誰かのために、何らかの価値を提案し、それが受け入れられる=価値が成立して初めて対価をいただくことができます。そう捉えると、すべての仕事はマーケティングの要素を含んでいるといえるのです。
理想は、ビジネスに関わる全員がマーケティングをしていること
西口:元々マーケティングに近い仕事をしている場合は、わかりやすいと思います。食品メーカーの営業なら、自分たちの顧客である取引先の小売店に自社商品の価値を提案し、「これは自分たちの顧客(エンドユーザー)に買ってもらえそうだ」と判断されて取り引きが成立することで、対価を得ています。
そして実際に顧客にたくさん買ってもらって継続的な購買につながれば、顧客にも小売店にも価値があるので、小売店は引き続き取り引きしてくれるでしょう。しかし、買ってもらってもリピートがなく一過性であれば、「顧客にとって価値がない」と小売店は判断して取り引きを停止するかもしれません。顧客に価値が成立するかどうかがすべてなのです。
たとえば吉永さんは、マーケターではなく編集者という肩書きですが、「MarkeZine読者にとって役立つ記事を作り、広げていく」という点ではMarkeZineのマーケターです。記事を1本単位で売っているわけではありませんが、編集部全体、あるいは部署や会社の皆さんの活動の積み重ねで、給与という対価を得ていますよね。
MZ:そうですね。
西口:では、翔泳社さんの総務や経理の方は、価値の創出に関わっていないのでしょうか? 誰かのために業務を遂行されているなら、直接の顧客は誰になるでしょう。
MZ:そう考えると、総務や経理の場合は社員が主な顧客にあたりますね。
西口:バックオフィスの方々はそういう構図にあることが多いでしょう。経理の業務があるから社員の経費精算が円滑に行えるわけですし、何らかの工夫をして精算がしやすくなったら、それは「新たな価値の提案」に他なりません。
仕事とは、すべてこうしたマーケティング的な価値の連鎖で成り立っているといえます。営業や企画はもちろん、総務や経理、法務など、どの部門でも誰かのために何らかの価値を生み出そうとしています。常にWHOとWHATがあり、そのための手法としてHOWがあるのです。