EC化率が依然低い日本市場は、少々特殊な環境
――周知のとおり、日本のEC化率は依然低い状況です。伺った話を踏まえると、APACの中でも日本はかなり様相が違う国、という感じになっているのでしょうか?
林:そうですね。一言にまとめると、「アジアはオンライン・日本はオフライン」といった感じでしょうか。
――アジアはオンライン・日本はオフライン、なかなかのパンチラインですね。
林:ただ、単純に遅れているというよりも、国の文化や世代の違いなど環境によるところがかなり大きいのだろうなと、今回NRF APACで再認識しました。
逸見:そうなんですよね。たしかに、日本が遅れていることは間違いないのですが、そもそも「(現状に)困っていない」という状況があります。
林:困っていないというキーワードは非常に重要だと思います。消費者も企業も、みんな“今は”困っていないんです。ただ、5年後、10年後を見据えると、変えていくべきところ、進化すべきところもあります。
――では、日本のリテールは今後どのような方向で進化していくべきでしょうか。NRF APACではどのような方向性が見出されましたか?
林:今後、日本では「リアルを軸にしたパーソナル化」が鍵になってくると考えています。実際、NRF APACに参加していた日本企業においては、リアルのデジタル化・パーソナル化に関するソリューションをよく見かけました。
日本企業のNRF APAC展示内容
・イオン:「イオン」と「イオンスタイル」の全店舗で導入している従業員教育のVRプラットフォーム「InstaVR」を紹介。「InstaVR」では、店舗でのOJT教育をデジタライズし、リアルとシミュレーションの反復練習を実施。これにより、コスト削減とフォローアップの効率化を実現。
・ソニー セミコンダクタ ソリューションズ:エッジAIセンシングプラットフォームの「AITRIOS(アイトリオス)」を展示。サイネージの視聴者を検知する技術で、視聴者の性別、年齢層、視線の方向などのメタデータを収集できる。
・サトー:RFID(自動認識技術)により、在庫データをリアルタイムに可視化できるシステムを展示。
逸見:すべてをデジタル化するというより、然るべきところのデジタル装備さえできれば、リアルの効率化も可能になりますし、データドリブンなパーソナライズ化も進みます。ここに、生成AIを導入することができれば、接客の文脈はさらに豊かになるでしょう。
林:NRF APACでは、私が理事を務めるリテールAI研究会も出展を行いました。展示したのは、生成AIでPOPを自動生成できるソリューションです。これは西鉄ストア、マインディアとの共同研究で開発したものなのですが、ECサイトに投稿された口コミや、購買データ(ID-POSデータ)を分析し、その店舗の顧客の特徴を分析した上で、POPを自動生成することができます(参考リリース)。

私自身、明治屋や三菱食品にいた頃、手作業でPOPを作っていました。この業務、本当に大変なんです。この作業が効率化されるだけでなく、店舗顧客のペルソナを明らかにした上で最適なPOPを出してくれるということで、いま業界でも非常に注目をいただいています。