10月23日(水)、ヴァリューズのオフィスにおいて一般社団法人日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(以下、EBMI)の設立を報せる記者発表会が開かれた。
EBMIは「根拠のあるマーケティング」の牽引・啓蒙を目的とする専門機関。事業会社のCMOクラスで構成される「研究振興評議会」と、評議会メンバーが委員長を務める「研究分科会」の二つが中心となり、日本市場におけるエビデンスの実証研究を進めていく。
たとえば、研究振興評議会に所属する菓子メーカーのメンバーが「菓子業界ならではの成長法則や効果的なアプローチを知りたい」と要請した場合、当該テーマを専門に研究する分科会が設立される。分科会では研究統括を務める芹澤連氏や、研究パートナーであるカタリナマーケティングジャパンらが、菓子カテゴリーのエビデンスを調べて実際の購買データで実証。研究分科会がまとめた内容は、EBMIの会員専用サイトで記事や動画などの学習リソースとして共有する。
また、CEP(カテゴリーエントリーポイント)の活用方法や、メンタルアベイラビリティの測定方法など、カテゴリーを問わない汎用的なテーマも研究の対象とする。CEP分科会やメンタルアベイラビリティ分科会などを設立し、研究を通じて測定方法や活用方法を確立していく。
現時点で三井住友海上火災保険、カインズ、三井住友カード、ジャパンフリトレー、伊藤ハム米久ホールディングスなど計8社が参画。一年後に80社突破を目指す。消費財メーカーを中心としたBtoC企業が参画社の多くを占めているが、将来的にはBtoB企業にも対象を広げて活動する考えだという。
EBMIの代表理事を務める三井住友海上火災保険の木田浩理氏は、マーケティング業界における問題を提起するとともに、協会のミッションを次のように語った。
「『上位20%のヘビーユーザーが売上の80%をもたらす』『広告は常に一貫性が求められる』など、マーケティングの世界には長年信じられている言説があります。ただし、それらの“当たり前”が通用しない局面も往々にしてあるはずです。過去に成功したマーケターの体験談が、あたかも再現性のあるフレームワークのように語られてしまっている気がします。EBMIでは事実と科学的な証拠に基づいて成長法則を見出し、会員社に向けて還元していく考えです」(木田氏)
マーケティングサイエンティストの立場で研究分科会を統括する芹澤氏は、活動の展望を次のように語った。
「海外においては既存手法を検証する取り組みが盛んな一方、日本ではまだ一般的ではありません。EBMIを通じて海外の先行研究を紹介するとともに、日本市場ならではのエビデンスや成長法則を見出し、プラクティカルな知識として実務者に提供していきたいと考えています」(芹澤氏)
研究分科会に研究パートナーとして参画するカタリナマーケティングジャパン。取締役副社長の松田伊三雄氏は、同社が専門とするリテールメディアの台頭を引き合いに、エビデンスベースとマーケティングの重要性を説いた。
「米国では、マスメディアを追い抜く規模でリテールメディアに広告予算が投下されています。その背景には、実購買データに基づく広告効果の検証とアロケーションを重視するマーケターの姿勢が見てとれます。当社のビジョンは『データという事実で機能するマーケティングを実現する』です。EBMIのメンバーの皆様に、我々のノウハウを提供していきたいと考えています」(松田氏)
記者発表会にはEBMIのアカデミックアドバイザーを務める田中洋氏も参加し、協会発足の意義を次のように表した。
「マーケティングには、規則的に起こる現象が存在します。そのような現象を捉えて研究し、再現性のある手法として知らしめる『マーケティングの一般化』に、私は以前から関心を寄せていました。EBMIの発足に、エビデンスベーストマーケティングという考え方が世の中に浸透する兆しを感じます。微力ではありますが、協会のお手伝いをさせていただく機会に感謝しています」(田中氏)