TikTokの強みはレコメンドシステムと多様なコンテンツ
――今、サイバーエージェントグループではTikTokをはじめとした縦型ショート動画の活用支援を強化していると思いますが、三浦さんと伊藤さんはTikTokの強みについてどのように考えていますか。
三浦:TikTokの一番の強みは、レコメンドシステムの精度の高さだと考えています。ユーザーは基本的に「おすすめ」フィードで動画を視聴していますが、動画を視聴するかスワイプするか、さらには「いいね」やコメント、リンク先へ遷移するかなど、すべてユーザー自身の能動的な行動によって決まります。
レコメンドシステムはこの一連の行動データを日々学習し最適化しています。つまり、ユーザーは見たいものを見ることができ、TikTokはユーザーのインサイトを学習できる好循環を回せているのです。このレコメンドシステムは広告にも活かされているため、精度の高い広告配信が可能となっています。
伊藤:私は、あらゆるジャンルでエンターテインメント性の高いコンテンツが存在していることが強みだと考えています。ビジネスやグルメ、スポーツなど様々なジャンルのコンテンツが投稿されるようになりました。
発信するクリエイター側も何かのジャンルに特化したコンテンツを制作するのが当たり前となっているので、広告も比較的どの業界でも配信しやすくなっています。
また、これまで以上に、デジタル広告に対して嫌悪感を抱かれやすくなっており、そこに課題感を持たれる広告主様もいらっしゃいます。TikTokは、コンテンツから広告に推移しても好意度は約6割を維持しており、興味度は上昇しています。(※)このような時代において、TikTokのように広告であってもコンテンツと同様に、好意的に見られるプラットフォームは非常に重要な役割を担っていると思います。
(※)TikTok for Businessが第三者機関に委託して実施したTikTok視聴時の脳波計測調査『コンテンツ全盛時代の「ヒト起点の動画広告」』
クリエイティブは複数パターン大量生成が基本
――レコメンドシステムの精度の高さと多様なコンテンツ。この2つの強みを活かしながら、TikTok広告の効果を高めるためには何が必要なのでしょうか。
三浦:TikTokのレコメンドシステムを最大限活かした広告配信には、表現が異なるクリエイティブを数多く用意することが重要です。
縦型ショート動画の広告を配信する際、2~3本だけクリエイティブを用意する、テレビCMなど他媒体で配信している横型動画をそのまま配信するなど、クリエイティブ制作のハードルの高さから本数やパターンを妥協するケースが見られます。しかし、それでは限られたユーザーにしかリーチすることができません。そのような課題を解決できるようにサイバーエージェントとしてはUGC動画や縦型ショートドラマなどの専門のクリエイティブ組織を保有しています。
また、TikTok for Businessが様々なクリエイティブソリューションを提供しているので、それらを駆使しながら数多くのクリエイティブを用意していくこともおすすめします。
――TikTok for Businessではクリエイティブ制作に関するソリューションを提供しているとのことですが、どのようなものを提供しているのでしょうか。
稲垣:たとえば、2024年8月には生成AIを活用したクリエイティブソリューション「TikTok Symphony」を発表しました。本ソリューションでは、チャット形式で動画のアイデアや動画作成の基本を聞ける「Symphony Assistant」、4つのステップを進めるだけで生成AIにより動画が作成できる「Symphony Creative Studio」などがお使いいただけます。このようなクリエイティブ制作に関するテクノロジーへの投資は今後も積極的に行っていく予定です。
稲垣:さらに、TikTokクリエイターから広告動画を募集する「TikTok Creative Challenge」(日本ではテストローンチ中)、パートナー企業に広告制作を依頼できる「TikTok Creative Exchange」などの独自のクリエイティブソリューションも揃えています。
効果を高めるTikTokの配信設計で重要なこと
――TikTok広告の効果最大化において、クリエイティブを複数パターン用意することの重要性は理解できました。TikTok広告には運用型のメニューもあると思うのですが、運用面での工夫に関してはいかがでしょうか。
三浦:前述の通り、TikTokのレコメンドシステムの精度は相対的にもかなり高いためプラットフォームの自動最適化に任せた配信でも一定の広告効果が得られると考えています。しかし、我々としてはさらに高い効果を得るために自動最適化以外の検証も同時に行っています。
サイバーエージェントには、私のいる縦型動画戦略局だけでなく、TikTok広告の運用に特化したTikTok局、さらには各プラットフォームの検証を行うアルゴリズム研究センターなど、TikTok広告の効果を最大化する運用方法について日々探求している組織が存在します。
各プラットフォームで自動最適化の動きが強まっていますが、そこに人の力を掛け合わせて効果を最大化できるのが広告代理店の介在価値なので、課題を感じたらパートナーを探すのも1つの手だと思います。
クリエイタータイアップの効果最大化に必要なこと
――続いて、TikTok上でクリエイターとのタイアップを行う際のポイントをサイバーティカルの伊藤さんに伺います。まず、タイアップを活用する一番のメリットはなんでしょうか。
伊藤:ユーザーに「興味がある」と感じてもらいやすいことが最大のメリットです。TikTokでユーザーがコンテンツをスワイプするかしないか判断する時間はわずか数秒と言われています。その短い時間で視聴し続けたいと思ってもらえる動画を作る必要があります。
その際に、有効的な手段としてショート動画において影響力のあるクリエイターとのタイアップ、または起承転結のストーリー性のあるショートドラマとのタイアップが挙げられます。それらのタイアップにより、視聴率が上がり、おすすめに乗りやすくなるという好循環を生み出せます。
――タイアップでは多数いるクリエイターから最適な人を選ぶことが重要になると思うのですが、キャスティングのコツはありますか。
伊藤:自社商品・サービスのターゲットとなるフォロワーの含有率が高い人、そして直近のエンゲージメント率が高い人を選ぶことが重要です。サイバーティカルの場合は、これらの数値に加え、フォロワーのデモグラフィックデータやキャスティング費用に対してオンターゲット率が適切かどうかのデータなど、独自の指標で選定しています。
TikTok広告、ショートドラマタイアップの最新事例を紹介
――ここまでお話しいただいた広告とタイアップのポイントを踏まえて支援した結果、成果の出た事例を教えてください。
伊藤:タイアップに関しては、アパレル企業×ショートドラマタイアップの事例があります。ショートドラマとのタイアップを行い、その動画を第三者配信で広告配信した結果、好意度と利用意向が10%以上アップし、他のプラットフォームの配信実績よりも高い結果となりました。
――どのような課題を持つ企業だとショートドラマのタイアップは効果的だと考えていますか。
伊藤:競合と差別化がしにくい、もしくは商品・サービスを理解させるのが難しい企業にショートドラマのタイアップは有効です。たとえば、金融・保険業界、不動産業界、人材業界、通信業界などが該当します。
コンテンツライクなドラマというフォーマットを活用することで、1〜2分間という短い時間でもサービスや企業の良さを伝えられることが可能です。
――ショートドラマのフォーマットは商品理解の促進と視聴時間増加に効果的だということがわかりました。TikTok広告の活用事例に関してはいかがでしょうか。
三浦:ある化粧品企業様の事例では、トップビューと呼ばれる認知目的のTikTok広告を配信してリーチを拡大した後、獲得目的の広告を出すフルファネル配信を行いました。この結果、該当商品の売り上げが120%となりました。TikTok広告はフルファネルで活用することで、より高い効果が得られるポテンシャルがあります。
また、検索への寄与につながったケースもあります。人材の企業様は、認知目的のTikTok広告を配信しながら、検索広告を同時に配信しました。その結果、検索広告のCPAが通常よりも25%低下したのです。
稲垣:お二人にお話しいただいた事例からわかるように、TikTokは認知から獲得までフルファネルで貢献できる力があります。これまでデジタル広告は認知か獲得の両極にソリューションが分断されていました。しかし、TikTok広告はその中間に位置する興味関心層へのアプローチ、潜在層から興味関心層へ態度変容させるのに強いと考えています。
稲垣:TikTokのレコメンドシステムでは、ユーザーのコンテンツに対する反応を学習しています。その中には、気になる商品や欲しい商品に関する動画を見た、いいね・コメントをしたなど、消費行動と密接な反応が含まれます。
これらの特徴を活かして、最適なターゲットにアプローチするのはもちろん、企業のマーケティング・経営にTikTok広告がどれだけ貢献しているか計測できるソリューションも出していきたいと考えています。
新卒1年目社長のユーザー視点で縦型ショート動画活用を支援
――11月1日に設立されたサイバーティカルの設立背景を教えてください。
伊藤:設立の背景は主に2つあります。1つは縦型動画広告の市場規模が伸びているということです。サイバーエージェントとデジタルインファクトの調査によれば、縦型動画の市場規模は2022年から2023年の間に1.56倍に拡大しており、今後も急速に成長していくことが予測されます。サイバーエージェントとして、この需要の増加に対応したいと考えました。
もう1つの背景には、認知・ブランディングを目的にした縦型動画広告の市場シェア獲得のチャンスがあることが挙げられます。現状上記目的の縦型動画広告の多くはテレビCMを横展開したもので、デジタル発の認知・ブランディング目的の縦型動画広告はまだこれからという状況です。
そして、この2つの背景に対応する上で、認知・ブランディング目的でも特に効果的なタイアップ広告に特化した会社が必要ということで、サイバーティカルを立ち上げました。
――そのサイバーティカルの社長に就任した伊藤さんは、サイバーエージェントでは6年ぶりの新卒1年目社長だと聞いています。なぜ自身が社長に任命されたと思いますか。
伊藤:急激に伸びているかつトレンドの変化が激しい縦型動画の市場に対応するには、圧倒的なユーザー視点が必要だからです。私はTikTokが国内に登場した当時から使い続けており、どのクリエイターが人気か、どのコンテンツが流行しているかが手に取るようにわかると自負しています。
この日常的にTikTokを触り続けてきたユーザー視点が、新卒1年目ならではの強みとなり、社長就任の機会をいただけました。
稲垣:TikTokの活用を推し進める上で、普段からTikTokに親しんでいる方の発想は欠かせないと思います。TikTok上のクリエイター数は年々増加し、投稿されるコンテンツはもちろん、各クリエイターの特徴を把握することが難しくなっています。
この多様化するクリエイター、コンテンツのトレンドの細かい変化に気づくには、ユーザー視点を常に持たれていないと難しいと思います。
国内初の認定プログラムを持つサイバーエージェント独自のメソッドを築く
――最後に今後の展望を教えてください。
稲垣:TikTok for Businessでは、TikTokマーケティングパートナーと呼ばれるグローバルのパートナー認定プログラムを展開しています。その中でサイバーエージェント様はエージェンシーバッジ(認定代理店バッジ)を獲得しており、これは日本国内初の快挙となります。
また、サイバーエージェント様は2024年11月に設立されたサイバーティカルや縦型動画戦略局、TikTok局など、TikTok広告の活用に特化した子会社、組織を有しており、縦型動画に関するスペシャリストを数十名規模で抱えている、国内有数の企業です。
我々としても、今後もサイバーエージェント様と強力なパートナーシップを維持し、縦型ショート動画を活用した新たなマーケティングの形を共に創出しながら、国内マーケットをリードしていきたいです。
伊藤:広告が毛嫌いされる令和という時代に置いて、サイバーティカルはショートムービーを活用し心に響くマーケティングを実現することをミッションに掲げています。
サイバーティカル独自のタイアップ広告活用のメソッドに加え、時にはサイバーエージェント本体の運用力や開発力もお借りしながら、TikTok広告の効果を最大化する企画を広告主様に提案できればと思っています。
三浦:TikTokは進化の勢いがすさまじく、コンテンツの流行りの移り変わりも早い上に、広告ソリューションの提供やユーザー向けアップデートも頻繁に行われます。そのトレンドに追随しながら、サイバーエージェントならではのベストプラクティスを広告主様、TikTok for Business様と作っていきたいです。