パーソナライゼーションとは
パーソナライゼーションとは、情報提供やアプローチ方法、サポートなどを顧客に合わせて最適化するマーケティング手法です。具体的には、顧客の属性(性別・居住地・年代など)や購買履歴、Webサイトの閲覧履歴などを分析し、各顧客の好みや傾向に合わせてアプローチします。
たとえば、ECサイトを閲覧しているとき、過去に購入した商品と似通った商品や関連商品を提案された経験がある人もいるのではないでしょうか。それが、パーソナライゼーションの一例となります。
パーソナライゼーションの重要性・目的
パーソナライゼーションの重要性や目的を見ていきましょう。
顧客の行動や価値観が多様化している
テレビCMをはじめとするマスマーケティングが主流だった時代には、顧客は企業から提供される情報のみで判断するしかなかったため、不特定多数に向けた画一的なアプローチで成果が出ていました。
しかし、インターネット検索やSNSなどで手軽に情報収集できるようになった現代では、自分の好みや悩みに合わせた商品・サービスを顧客自ら発見できるようになりました。そのため、企業は顧客それぞれに最適化したアプローチをしなければ成果につながりにくい現状から、パーソナライゼーションの重要性が高まっています。
顧客体験を重視するようになっている
顧客の価値観が変化しており、商品・サービス自体の価値だけでなく、その商品・サービスを利用したときの“体験”に価値を感じる顧客も少なくありません。「自分にぴったりの商品を提案してもらえた」「自分に合っているサポートをしてもらえた」という顧客体験を提供することで満足度を高め、顧客との関係性を構築する手段として、パーソナライゼーションが注目されています。
Cookieレスの流れが到来している
さらに「Cookieレス」「ポストCookie」の流れも、パーソナライゼーションの重要性を高める要因となっています。
Cookie(クッキー)とは簡単に言うと、Webサイトを閲覧した際にブラウザに保存される情報のことです。
Cookieの分析によって企業はユーザーの好みや行動を把握できていましたが、ユーザーのプライバシーの観点でCookieレスが重要視されるようになってきました。そのため、顧客の属性情報や購買履歴、利用履歴など、自社で蓄積している情報(ファーストパーティデータ)の活用が推奨されています。
データ規制が進む中、どのように顧客に最適化していくか、という観点でもパーソナライゼーションが注目を集めています。
なお、こちらの記事ではCookieレス時代のマーケティング手法について企業の事例や意見をまとめているので、ぜひ参考にしてください。

「パーソナライゼーション」と「カスタマイゼーション」の違い
パーソナライゼーションと混同されやすい言葉に「カスタマイゼーション」があります。
カスタマイゼーションとは、顧客自身で商品・サービスやコンテンツなどを選ぶことです。たとえば、顧客の好みや体型に合わせたオーダーメイドスーツや、機能をカスタマイズできるクラウドサービスなどが挙げられます。
企業が主体となり提案したい商品・サービスや提供したい情報を選択するパーソナライゼーションとは異なり、カスタマイゼーションは顧客が主体となって選択するという点が異なります。
パーソナライゼーションに必要な3つのデータ群
パーソナライゼーションを行うには、緻密なデータ分析が必要です。具体的には、以下の3つのデータ群を活用します。
コンテキスト
コンテキストデータとは、顧客がWebサイトやアプリを利用するデバイスや時間帯、アクセスしている場所など、利用環境や背景に関するデータです。コンテキストデータを活用すると顧客の状況が明らかになるため、たとえば「時間限定のクーポンを発行する」「近くの店舗情報を表示する」などの施策ができます。
デモグラフィック
デモグラフィックデータとは人口統計学的特徴を示すデータのことで、年代・性別・居住地・年収・家族構成などのデータです。また、顧客の興味関心もデモグラフィックデータとなるため、パーソナライゼーションに役立ちます。
ビヘイビア―
ビヘイビアーデータは、顧客の行動データの履歴を指します。閲覧したWebページや購入した商品、クリックしたリンクなどのデータを分析すると、その顧客の関心事や購入傾向などを把握できるでしょう。

パーソナライゼーション手法の具体例
パーソナライゼーション手法は、具体的にどのような場面で活用されているのでしょうか。ここでは、5つの具体例を紹介します。
ECサイトの商品レコメンド
ECサイトでは、顧客の購入履歴や趣味嗜好などに合わせて商品をレコメンドするパーソナライゼーション手法が広く活用されています。たとえば、過去に購入した商品と似通った商品や関連商品をレコメンドしたり、過去に閲覧した商品を再びピックアップして表示したりする方法です。
顧客は自身で検索しなくても好みに合った商品と簡単に出会えるため、利便性が向上するでしょう。また顧客の購買意欲を刺激する効果もあり、コンバージョン率アップも見込めます。
閲覧履歴や属性に合わせた広告配信
パーソナライゼーションした広告配信も、広く活用されているマーケティング手法です。WebサイトやSNSの広告において多く活用されており、閲覧履歴や属性に合わせて最適な広告を配信します。
顧客に最適化された広告を配信するため、クリックを促せるのが大きなメリットです。また属性や興味関心を分析したうえで自社のターゲットとする層にピンポイントでアプローチするため、コストの適正な配分が可能になります。
一人ひとりに最適化したメール配信
メール配信でもパーソナライゼーションが活用されています。
パーソナライゼーションメールの一例は、以下の通りです。
- 顧客の興味関心に合わせた商品を提案するメール
- 顧客が加入しているプランのオプションを提案するメール
- ECサイトのカートに商品が残っている顧客にリマインドするメール
- ウェビナーに参加した顧客に限定したクーポンを発行するメール
メルマガは他のメールに埋もれやすいデメリットがあります。過去の行動や趣味嗜好に合わせてパーソナライゼーションした内容とタイトルでメールを配信することで、開封率やコンバージョン率などの改善が期待できるでしょう。
属性や閲覧履歴に関連するポップアップの表示
顧客にパーソナライゼーションしたポップアップを表示するWebサイトも多く見受けられます。
たとえば、閲覧しているページに合わせてクーポンを発行するポップアップや、特定のページの滞在時間が長い場合にサポートチャットへ誘導するポップアップなどがあります。顧客に最適化されたポップアップはWebサイトの利便性を高めるため、クリック率や満足度の向上につながるでしょう。
購入履歴や利用状況に適したサポートの提供
Webサービスでは、顧客が加入したプランや、サービスの利用状況などに最適化したサポートの提供も行われています。たとえば、導入したばかりの顧客に対して初期設定のチュートリアルを提供したり、導入後にあまり利用していない顧客には活用方法や活用事例などの情報を提案したりするなどの方法です。
最適化したサポートの提供により顧客の利用を促し、解約を防止する効果があります。

パーソナライゼーションをマーケティングに活用する方法
パーソナライゼーションをマーケティングに取り入れたいと思っても、どのように始めるべきかわからないという人も多いのではないでしょうか。そこで、マーケティングへの活用方法を解説します。
データ収集・分析の基盤を構築する
前述したように、パーソナライゼーションを行うには多様なデータが必要となるため、データを収集して分析できる基盤の構築が必要です。
パーソナライゼーションに使われる顧客のデータとしては、以下のようなものがあります。
- 顧客の基本データ(年代や居住地など)
- Webサイトの閲覧データ
- 購入履歴・取引履歴のデータ
- 利用状況のデータ
- SNSのアクティビティデータ
これらのデータは、別々のシステムやツールなどで管理されているのが一般的です。そのため「あのデータを集計したいからツールAを開こう」「次に、このデータを分析したいからシステムBにデータを入れなければならない」など、集計や分析に膨大な手間がかかります。
そこで、複数のソースからのデータを集約・統合して分析するための基盤構築が求められます。たとえば、データ分析ツールやBIツールの導入、Googleスプレッドシートの加工といった方法があるでしょう。
場合によっては、メディアや広告代理店などの外部企業が収集した顧客データや、政府機関などが公開しているデータを使うこともあります。自社で収集した情報である「ファーストパーティデータ」以外にも、他社が収集した情報である「セカンドパーティデータ」や第三者機関による「サードパーティデータ」など、多様なデータを活用してパーソナライゼーションを実行します。
なお、ファーストパーティデータとは何かについてこちらの記事で解説しているので、あわせてご確認ください。
顧客セグメントを設計する
パーソナライゼーションは個々の顧客に最適化したアプローチと言われていますが、実際にはセグメンテーションした顧客ごとにアプローチ方法を設計するのが一般的です。1つのセグメントに対するアプローチだけでなく、セグメントをかけ合わせることでさらに精度の高いアプローチができます。
たとえば「商品Aを購入した顧客」というセグメントのみではなく、複数のセグメントをかけ合わせて「商品Aを購入した30代女性」というセグメントにすることで、その層に最適化した情報を届けられるのです。
まずは自社の顧客をシンプルなセグメントに分類してから、コンバージョン率が高いセグメント同士や類似するセグメント同士をかけ合わせて設計するとよいでしょう。
MAツールやCRMを導入する
データの収集・分析のほか、施策の実行や効果測定も行えるよう、MAツールやCRMの導入をおすすめします。MAツールやCRMは、顧客の基本データだけでなく、閲覧履歴や購入履歴、お問い合わせ履歴などさまざまなデータを一元化して管理できます。
また、メール配信やポップアップ表示、広告配信などの施策を実行できるツールもあり、効果測定も可能です。
パーソナライゼーションに関する業務を効率化し、PDCAを回して成果を高めていくために、MAツールやCRMを導入しましょう。

パーソナライゼーションの注意点
パーソナライゼーションは多くのメリットが期待できますが、実施する際には注意すべきポイントもあります。
顧客のプライバシーに配慮する
パーソナライゼーションは顧客の利便性や満足度を向上させる一方で、「なぜ自分のデータが把握されているのか」と不信感を抱く顧客も少なからずいます。近年では顧客のデータプライバシーへ配慮し、Cookieデータ収集やトラッキングの許可(オプトイン)/不許可(オプトアウト)を選択できるWebサイトやアプリは増加傾向です。
顧客との関係性構築には顧客の不信や不便を取り除く必要があるため、事前にデータ収集の許可を取るなどの配慮をしましょう。
データの取り扱いに注意する
パーソナライゼーションには顧客の多様なデータを活用します。顧客の個人情報や、閲覧履歴・購入履歴などのプライベートなデータも膨大に含まれているため、情報漏えいなどのトラブルが万が一起きてしまうと多大な損害につながりかねません。パーソナライゼーションを実施する際には、データの取り扱いには十分に注意しましょう。
顧客の選択肢を制限するリスクがある
過度なパーソナライゼーションは、顧客が新たなジャンルや商品と出会うことを排除してしまっている可能性があります。顧客自ら情報を探す必要がない反面、選択肢が制限されてしまうというデメリットがあるため、顧客によっては不便や不快を感じることもあるという点には注意しましょう。
現在のニーズに応えられない可能性もある
パーソナライゼーションは、過去の閲覧履歴や購入履歴などに基づいて実行するため、現在のニーズとは異なる点も懸念されます。
たとえば、過去にダイエット用のサプリメントを購入した顧客に対して類似商品や関連商品をレコメンドしたとしても、その顧客がダイエットに成功していれば、レコメンドされた商品はニーズにマッチしなくなります。
リアルタイムのニーズとは異なる可能性がある点には注意して、パーソナライズの施策を行いましょう。

いま注目を集める「ハイパー・パーソナライゼーション」とは
パーソナライゼーションはマーケティングにおいて重要なキーワードですが、最近では進化系の「ハイパー・パーソナライゼーション」が注目を集めています。概要やメリットなどを見ていきましょう。
ハイパー・パーソナライゼーションとは
パーソナライゼーションは基本的に過去のデータに基づいて行いますが、AIやリアルタイムデータなどを活用して、より精度の高い最適化を実現したのが「ハイパー・パーソナライゼーション」です。
ハイパー・パーソナライゼーションのメリット
ハイパー・パーソナライゼーションは、リアルタイムの状況やニーズに合わせて最適化された情報を提供するため、従来のパーソナライゼーションよりも利便性や満足度の向上につながります。
また、従来よりもターゲティングの精度が高くなり、そのターゲット顧客に寄り添った提案ができるようになります。どの顧客にどのような情報を提供するか明確になるため、従来以上にコストを適切に分配できるでしょう。
ハイパー・パーソナライゼーションの具体例
ハイパー・パーソナライゼーションは、以下のような場面で使われています。
- 閲覧した商品ページに合わせ、リアルタイムでクーポンやキャンペーンメールを送る
- 位置情報と天候情報に合わせて最適な服装を提案する
- 位置情報に基づいて、周辺店舗のセール情報や在庫情報を表示する
このように、ハイパー・パーソナライゼーションではリアルタイムの状況やニーズに即した提案が可能です。

パーソナライゼーションをマーケティングに取り入れよう
顧客は、状況に合った情報や好みにマッチした提案を求めています。パーソナライゼーションは、そうした顧客のニーズを満たすのに有効はマーケティング手法で、顧客の利便性を高めて満足度を向上させる効果が期待できます。
情報が膨大な現代では、顧客は手軽に有益な情報を得たいと考えているため、パーソナライゼーションは効果的です。
ぜひWebサイトやアプリ、メール、広告などあらゆる場面でパーソナライゼーションを活用し、さらなる成果をあげましょう。